庭の桜が満開になったので、早速みんなでお花見をした。 美しい桜の下、光忠達が作ってくれた花見弁当を食べ、お酒が飲める者はお酒を酌み交わして大いに盛り上がった。 今日だけは血生臭い戦のことは忘れて。 まるで本当の人間のように心行くまで花見を楽しんだ。 楽しんでくれた、と思いたい。 そんなものは偽善だと言われるかもしれないが、私はどうしても彼らをモノとして扱うことに抵抗があった。 ヒトの姿をしている以上、人としての幸せも味わってもらいたい。 そう願わずにはいられない。 「浮かない顔をしているな」 不意にかけられた声にびくっとして振り向くと、三日月がこちらに歩いて来るところだった。 既に寝間着姿ではあるが、それでも雅な雰囲気は変わらない。 「三日月……どうしてここに?」 「なに、月に誘われて縁側に出て見れば、夜桜の下に佇む主の姿が見えたのでな。せっかくだから共に夜桜を楽しもうと思ったのだが」 三日月の口元に浮かぶ微笑が苦いものに変わる。 「その様子では美しい夜桜も目に入ってはいないようだな」 「ちょっと考え事をしていたら不安になってしまって」 「不安、か。何をそんなに怯えている」 「…みんながいなくなってしまったらどうしようって…」 「なんだ、そんなことか」 小さく笑った三日月を信じられない思いで見ると、彼は微笑みながらも真剣さを滲ませた声音でこう告げた。 「お前が大切に思う者達は俺が護ろう。お前自身も含めて、全て俺が護ってやる」 「三日月…」 「どうだ、憂いは晴れたか?」 「うん…ありがとう」 護ると約束してくれたのだから、彼を信じよう。 いつか来る別れの日まで、誰一人欠けることなく共に進んでいけるように。 そのためには努力を惜しまない。 私に出来ることは全てやろう。 そう決意を新たにした私を、三日月が突然抱き上げた。 「きゃっ!?」 「騒ぐな、騒ぐな。よく上を見てみるといい」 三日月にお姫様抱っこされて慌てた私は、彼の言葉で視線を上に向けた。 目の前には満開の夜桜。 抱き上げられたことでその花枝が近づき、香りさえ感じられそうなほどに距離が近い。 「美しいだろう」 「うん…凄く綺麗」 暗闇に仄かに白く浮かび上がる桜の花も。 そして、彼の両の瞳に浮かぶ二つの三日月も。 |