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「ゆっくり買い物してくれ。周りは俺が見といてやる」

そう言って、薬研は店内と外が見渡せる位置に立ち、油断なく辺りに視線を走らせた。
修行から戻って来て以来、男前度が更に上がった気がする。

もはや行き慣れた万屋の中で何事かが起こるとは思えないが、見張りは薬研に任せて安心して買い物に励むとしよう。

さすが早朝五時に仕入れを済ませているというだけあって、朝一で来ても品揃えが良い。
その中でも特売品が目を引いた。

「薬研、ちょっと重くなってもいい?」

「ああ、任せろ」

薬研の頼もしい答えに、出陣資源詰め合わせの購入を決めた。
木炭300個、玉鋼250個、冷却材250個、手伝い札1個の詰め合わせだ。
会計を済ませて、とりあえず持てる分だけ包んでもらう。
残りは配達してもらう手筈を整えた。

「荷物はこれだけか?」

もっと重たくても平気だと言わんばかりの顔をされたが、

「帰り道で何かあった時に動けなかったら困るでしょう」

と言えば、納得してくれた。

「大将、買い物はこれで終わりか?」

「うん。帰ろう」

店を出た薬研は、一度辺りを見回してから私に頷いてみせた。
彼に続いて私も店を出る。
荷物を持った薬研と二人、並んで本丸への道を辿る。

「帰ったら馬に乗せてね」

「馬か。あいつら舐めるからなぁ……」

苦い顔をする薬研に思わず笑ってしまう。
相変わらず馬は苦手のようだ。

「薬研のことが大好きなんだよ」

「それは喜んでいいのか?」

「もちろん。馬に好かれていないと戦の時に言うこと聞いてくれなくて困るでしょう」

「確かにそうだな」

「だから大人しく舐められてあげて」

「それは勘弁してくれ……」

私が笑うと、薬研は困ったような顔をしたが、ふっと口元を綻ばせた。

「薬研?」

「いや、俺のことが好きなら大将も舐めたいのかと思ってな」

「な、舐めないよ!」

「そうだな。大将は舐められるほうが好きそうだからな。特に、」

「薬研!」

「おっと、着いたぜ。心配性の出迎え付きだ」

薬研に促されて見れば、本丸の門の前に長谷部が陣取っているのが見えた。
ずっと待っていてくれたのだろうか。
だとすると何だか申し訳ない。

「お帰りなさいませ、主」

「ただいま、長谷部」

「主の護衛ご苦労だったな、薬研」

「大将を守るのが俺の仕事だからな。当然のことをしたまでだ」

二人の間に微妙に火花が散っている気がする。
そういえば、この二人は近侍の座を取り合っているのだった。
最近特に争いが激しい。

「長谷部、後で万屋から荷物が届くことになってるの」

「承知致しました。お任せ下さい」

「大将、俺がやる」

「薬研は馬に乗せてくれるんでしょ」

「……本気で言ってたのか」

「もちろん。ほら、早く」

「わかった、わかった。そんなに急がなくても馬は逃げないぜ」

厩に薬研を引っ張っていく後ろ姿を、長谷部がじっと見つめていたことに私は気がつかなかった。
薬研が勝ち誇った顔で振り返っていたことも。


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