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「おはよう、小鳥」

「えっ、山鳥毛さん!?ど、どうして」

「君を起こしに来た。寝顔も可愛らしかったが、寝起きの君も可愛いな」

「ふえぇっ!見ないでぇ!」

「何故だ?こんなにも愛らしいのに」

両手で咄嗟に顔を隠せば、手首をやんわり掴んで外そうとしてくる。

「意地悪をせずに、可愛い顔を見せてくれ、小鳥」

普段から男前なひとだけれど、優しく囁く声がまた朝一で聞くには腰砕けになりそうな色気のある美声で、私は顔を両手で覆ったまま悶絶しそうになった。
意地悪なのはどっちだと言いたい。

「主!!!」

ドドドド、と物凄い勢いで廊下を走って来る足音が聞こえたかと思うと、長谷部が部屋に飛び込んで来た。

「は、長谷部ぇ……!」

「お待たせしました。これをお使い下さい」

長谷部がずいと割って入り、熱いお湯で絞ったタオルを顔に当ててくれる。
私は有り難くそれで顔を拭き、ほっと息をついた。

「長谷部、長谷部」

「はい、俺はここにおります」

そうして長谷部に身をよせると、長谷部は私を自らの懐に隠すように抱き寄せてくれた。
長谷部の匂いとぬくもりに包み込まれてようやく気持ちが落ち着いてきた。

「身支度もまだされていない主の居室に無断で踏みいるなど、何を考えているんだ、貴様は!」

「なに、近侍の務めを代わってこなしてやろうと思ったまでだ」

そっとタオルをずらして覗いてみる。
長谷部と山鳥毛さんの間に激しく飛び散る火花が見えた気がした。

「小鳥、よければ、私にも君の支度を手伝わせてくれないか」

「え、で、でも」

「私は自分で思っていたよりも狭量な男だったらしい。君達の仲に嫉妬しているのさ」

情けないだろうと苦笑する山鳥毛さんに、何だかきゅんとしてしまい、私はつい彼の頼みを聞き入れてしまったのだった。

「これはどうだろう。秋の装いに相応しい色合いだと思うが」

「あ、綺麗ですね」

山鳥毛さんが選んでくれた着物を長谷部がてきぱきと着付けてくれる。
ナチュラルメイクをした私を見て山鳥毛さんが目を細めて「着物よりも君のほうが美しい」と褒めてくれた。

「寝顔も可愛らしかった」

「も、もう、それは忘れて下さい」

「主はいかなる時も常にお可愛らしいに決まっているだろう」

何を言っているんだと言わんばかりに長谷部が反論する。
二人とも、お願いだから寝顔と寝起きの顔は忘れて。

「では、朝餉に致しましょうか」

「うん、食べよう」

いつもは長谷部と二人で食べている朝食だが、今日は山鳥毛さんがいるので三人分運んでもらった。

「主、お口を」

「ま、待って長谷部、恥ずかしい」

「何故です?いつも俺が食べさせて差し上げているでしょう。何も恥ずかしいことなどありませんよ」

「そういうことならば、今朝は私が食べさせてやろう。おいで、小鳥」

山鳥毛さんの胡座をかいた足の上に横抱きに座らされ、玉子焼きを挟んだ箸を口まで運ばれる。
山鳥毛さんの精悍な顔立ちが近付いてきてドアップになったのであわあわしていたら、その隙に口に玉子焼きを入れられてしまった。

「美味いか?」

「う、う、」

「君は本当に可愛らしいな、小鳥」

くく、と笑った山鳥毛さんに思わず見惚れてしまっていると、ひょいと身体が抱き上げられた。
今度は長谷部の膝の上に座らされる。

「さあ、主。どんどん召し上がって下さい」

「えっ、ちょ、むぐぐ」

「強引なのは感心しないな」

「貴様が言うな。そもそも、主の近侍はこの俺だ」

再び火花を散らす二人。
優しくされるのは嬉しいけれど、二人の愛が胸に痛い。


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