もしかすると風邪をひいたかもしれない。 この年末年始の忙しい時期に寝込むわけにはいかないので、すぐ薬研に診察してもらうことにした。 「始めるぞ、大将」 「うん、お願い」 着物のあわせ目から薬研の手が入ってくる。 聴診器のひやりとした感触に思わず身をすくませたが、すぐに体温と混ざって気にならなくなった。 そうして、しばらく時間をかけて胸をまさぐられる。 といっても、いやらしい感じは全くしない。 これはあくまでも診察なのだ。 「今度は後ろを向いてくれ」 「うん」 薬研に背を向け、着物を肩から滑り落とす。 あらわになった背中に、またひやりとした感触が当たる。 何ヵ所かそうして聴診器を当てて音を聞いてから、薬研が「もういいぜ、大将」と言ってくれたので、着物を着直した。 また薬研のほうに向き直る。 「今度は口の中を見るからな」 あーんと口を開いて見せると、薬研は軽く舌を押さえて喉の様子を観察したようだ。 耳の下のリンパ腺がある辺りに手が触れる。 「少し腫れてるな。喉も赤くなってる」 薬研が冷静な口調で言った。 「風邪のひきはじめってところか。薬を飲んでおけば大丈夫だ」 「ありがとう、薬研」 「礼を言うのは早いぜ。何しろ、これから飲んで貰うのはとびきり苦い丸薬だからな」 「薬研が飲ませてくれるんでしょう」 「もちろん。仰せの通りに」 わざとかしこまった言い方をした薬研は、小さな布袋から黒っぽい丸薬を一粒取り出して私の口元に運んだ。 正露丸みたいな匂いがする。 たぶん味も似たようなものだろう。 いや、とびきり苦いと言っていたからもっと苦いのか。 口を開けると、ぽいと中に丸薬を入れられる。 無理矢理飲み込む私を見て小さく笑った薬研は、湯飲みの中身を煽ると、私に口づけた。 口移しで与えられたあたたかく甘い液体が喉を滑り降りていく。 「ん……ん、ちゅ」 舌を絡めて吸われ、口腔を舐め回してから薬研の舌は出ていった。 親指で濡れた唇を拭われる。 「はちみつ?」 「正解だ」 先ほど飲まされたのは、蜂蜜を湯に溶かしたものだったらしい。 「少しは苦いのがましになったか?」 「まだ苦い」 嘘だった。 とっくに苦味などどこかへいってしまっていたけれど、わざと甘えた口調で言えば、微笑んだ薬研が再び唇を重ねてきた。 そのまま優しく布団の上に仰向けに倒され、先ほどよりも情熱的に唇を貪られる。 「あ……薬研……」 「少し運動して汗をかくか、大将」 薬研の手が着物の前を割り開く。 その勢いのまま、ぷるんとまろびでた胸の膨らみに薬研が顔を伏せた。 今度は診察のためではなく、快楽を引き出すために。 |