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「お茶のご用意を致しましょうか」

長谷部と二人、次回のイベントについての調べ物に集中していたら、平野くんがそう声をかけてくれた。

「ありがとう。お願いしてもいい?」

「はい、ただいまお持ちします」

ああ、走らなくてもいいのに。
パタパタと廊下を駆けていった平野くんを見送り、改めてパソコン画面に向き直る。
そこには、『バレンタイン特集』の文字が踊っていた。

もうすぐバレンタイン。
今年も刀剣男士の皆にチョコを配る日がやって来る。
今日はそのためのミーティングだ。

「今年も当日まで皆には秘密にしておこうね」

「主がそう仰るのなら」

いつも通りの恭しい口調。
でもどこか不満そうな陰りを感じて、私は長谷部の顔を覗き込んだ。
表情こそ変わらないものの、やはり何か隠し事をしているようだ。

「長谷部はバレンタイン嫌い?」

「いえ、そんなことは」

「じゃあ、何がイヤ?怒らないから正直に言って」

「……主が、他の刀達にチョコをお配りになるのが、俺としてはあまり嬉しくありません」

「そっか、焼きもち焼いてくれたんだね」

「嫉妬深い男はお嫌いでしょう。こんな心の狭い男は」

「そんなことないよ。嬉しい」

ぎゅっと抱きつけば、同じ力加減で抱き締め返される。

「心よりお慕い申し上げております、主」

「うん。私も大好き」

「本当は俺だけを見ていて欲しいと…そう願わずにいられません」

「大丈夫、わかってる。長谷部が私の一番だからね」

「主……」

二人の唇が重なり合う直前、廊下をこちらへやって来る足音が聞こえてきた。
お互い名残惜しく思いながら身体を離す。

「お待たせ致しました」

平野くんが茶器のセットをトレイに乗せて持って来てくれたのだった。
ちゃんとお茶だけでなくお茶菓子も付いているのはさすがだ。

「ありがとう、平野くん」

「いえ、お役に立てて幸いです。何でもお申し付け下さい」

傍らでは、長谷部が早速お茶を淹れてくれている。

「うん、ありがとう。また何かあったらお願いするね」

「はい、僕は主のお供ですから」

こら、長谷部。
平野くんを睨まないの。
忠義心で張り合われると困るのは私なんだからね。

平野くんが立ち去ると、すぐにお茶とお茶菓子を差し出された。

「長谷部にはちゃんと本命チョコあげるから」

「は、有りがたく頂戴致します」

もう「待て」は終わりですか、と視線で問われたので、私からキスをした。

今年の本命チョコはどんなチョコにしようかな。


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