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梅雨の中休みとも言える晴れの日が終わった。
今日からまた暫く雨の日が続くのかと思うと憂鬱になる。

「それでなくても夢見が悪いのに」

「どんな夢なんだ?」

「それが、よく覚えていないんだけど、誰かに追いかけられる夢だったと思う」

朝、目覚めると汗びっしょりになっていることも珍しくなかった。
それほどまでの悪夢なのに、目が覚めるとどんな夢だったのか忘れてしまうのだから不思議なものだ。

「俺が添い寝してやろうか。悪夢を見てうなされたら起こしてやるぜ」

「薬研ってほんと男前だよね」

近侍の頼もしさに思わず溜め息をつくと、ぽんぽんと頭を軽く叩いて慰められた。

「夢のせいで夜眠れてないんだろ?今日の執務はここまでにしてゆっくり寝ろよ、大将」

「昼間からいいのかなあ」

「いいさ。後のことは近侍の俺に任せな」

「うん…ありがとう、薬研」

薬研に勧められるまま、私は自分の部屋へ戻って眠ることにした。
その前に、先ほど鍛刀した刀の仕上がる時間を確認する。

02:30:00

これはついに念願の大太刀が来るかもしれない。
太郎太刀かな、次郎太刀かな、とワクワクしながら部屋に戻って布団に入った。


──息が苦しい。

自分は今夢を見ているのだとわかっている。
わかっているが、背後から追ってくる何者かに捕まらないように、必死で逃げ続けていた。

誰かはわからない。

でも、捕まってしまったら終わりだということはわかる。

どこまでも追いかけて来る、その男は何かを呼びかけていた。

あと少し。
あともう少しで追い付かれてしまう。

もう追って来る者の息遣いまでもがすぐ後ろで聞こえるほどに迫って来ていた。

──もうすぐですよ

囁いた何者かの手が肩に触れた瞬間、私は布団の上に飛び起きていた。

「……夢……」

酷い顔色をしていると自分でもよくわかる。

薬研のところに行こう。

頼りになる近侍の姿を求めて、私は部屋を出た。

「薬研…どこ?」

「鍛刀部屋に行きましたよ。もうすぐ新しい刀剣男士が来るからと」

「そっか、ありがとう」

廊下をさまよっていると、洗濯物を抱えた平野くんが教えてくれたので、お礼を言って鍛刀部屋に向かう。

そういえば、そろそろ鍛刀が終わる時間だった。

「薬研」

「ああ、ちょうどいいところに来たな、大将。新しい刀が完成するみたいだぜ」

「大太刀!」

「どうだろうな。それより、顔色が悪いが大丈夫か?」

「平気。ただ怖い夢を見ただけだから」

そうだ。
あれはただの悪い夢に過ぎない。

さっさと忘れてしまおう。

そう思っていると、カウンターがゼロを示した。
喜び勇んで鍛刀部屋の中に入る。

そこに立っていたのは。

「やっと会えましたね、主」

夢の中でずっと私を追いかけて来ていたへし切長谷部が、呆然と佇む私をゆっくりと抱き締めた。


「捕 ま え た」


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