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怖い、怖い、怖い。

大きな雷の音も、ごうごうと唸る風も、時折空を走る稲光も、みんな怖い。
これだから台風は嫌なのだ。
出来ることなら台風のない場所に逃げ出したい。

幸いなことに停電はしていないので、ゲームでもして気を紛らわせることにした。

『とうらぶ』

「ああ…長谷部!」

ログイン中のボイスの長谷部に、思わず歓喜の声をあげる。
長谷部の声は好きだ。
主、主、と本当に慕われているような気分にさせてくれる、声優さんの力は凄い。

『刀剣乱舞、開始ですよ』

「今日もよろしくね、長谷部」

景趣はお気に入りの秋の夜。灯篭に灯りがともり、ライトアップされた紅葉が美しい。
薄暗い部屋の中に佇む長谷部が言葉を紡ぐ。

『それで?何を切ればいいんです?』

「台風……は、さすがに切れないよねぇ」

『主命とあらば』

「は?えっ?」

『それよりも、主がこちらに来て下されば安全ですよ』

突然、画面にノイズが走った。
画面に映っている長谷部の腕がなめらかに動く。
こちらに向かって伸ばされた手が画面いっぱいに広がったと思ったら、一瞬ぐにゃりと歪み、次の瞬間には画面のこちら側に突き出ていた。

「ひっ」

嘘、と呟くが早いか、長く伸びてきた手に手首を掴まれてしまっていた。
そのままぐいぐいと引っ張られる。

「や…やだやだ!長谷部、助けてぇ!」

『ええ、いま助けて差し上げます』

頭が画面に当たる。
ひやりとしたものを通過した感覚があって、あっという間に身体が半分以上画面の中に入り込んでしまっていた。

「た……たすけ…」

──ずぶり。

足先までが入り込み、私は目を瞬かせた。

気付いた時には、純和風の部屋の中に座り込んでいた。
間違いない。
今まで幾度となく画面越しに見ていた、審神者の部屋だ。
いま、そこに自分が居る。
信じられないことに、長谷部は私をゲームの世界の中に引きずり込んだらしい。

「お待ちしておりました、主」

「は、長谷部…」

思わず逃げ出そうとした身体を素早く抱き込まれた。

「逃がしませんよ。ああ…あなたのぬくもりを感じます。ずっとこうしたかった…俺の、俺だけの主」

頬に触れた長谷部の手があたたかくてびっくりした。
本当に本物の男の人のようだ。

「もう二度とここからは出られませんが、構わないでしょう?外は台風など恐ろしいことばかりですから」

長谷部がぎゅうぎゅう抱き締めてくる。
身体に重くのしかかる固く冷たい甲冑の感触が、これは現実なのだと伝えてくる。

「これからは俺がずっとお側にいて護って差し上げますからね。…ははっ」


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