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「小鳥、入るぞ」

「山鳥毛さん」

布団で上半身だけを起こして端末で戦績をチェックしていたら、山鳥毛さんが部屋に入って来た。
布団から出ようとした私を制して、自分が着ていた上着を肩に羽織らせてくれる。
彼のぬくもりが残っていてあたたかい。

「まだ本調子ではないのだろう。無理をするな」

「すみません、ありがとうございます」

まだ微熱が続いていてほのかに熱い額に手を当て、それからするりと指で頬を撫でてから、彼は端末にその真紅の目を向けた。

「ほう、頑張っているな」

「皆のお陰です」

「謙遜することはない。兵を指揮し、率いていくのも立派な仕事だ。君は審神者としてよくやっている」

「そう言って頂けると嬉しいです」

何かご用事があったんじゃないですかと尋ねると、彼は精悍な顔立ちに苦笑を浮かべた。

「すまない。かえって気を遣わせたな。実は、遠征に行っていた部隊が帰還して是非報告をと言っているのだが」

「私なら大丈夫です。聞かせて下さい」

「わかった。だが、くれぐれも無理はするな」

山鳥毛さんが振り返り、離れの入口に向けて合図を送る。
すると、待ちかねていたと言わんばかりに長谷部が離れの中へ入って来た。

「ご苦労。報告を聞こう」

山鳥毛さんが言うと、長谷部は一瞬ムッとした顔になったが、すぐに私の前に畏まった。

「それでは、ご報告申し上げます」

帰還した長谷部と部下達は大量の資材を持ち帰ってきた。
今回の成果は、木炭が350に、玉鋼が200、冷却材が100と、砥石が250。
オマケに小判箱まで持って帰って来たらしい。
遠征は大成功だったと言える。

「ありがとう長谷部。これだけあれば凄く助かるよ」

「俺にかかれば、当然でしょう。全ては主のためですから」

褒められて得意げな顔をする長谷部が可愛い。

「それよりも、お身体の具合はいかがですか」

「大丈夫。ただの風邪だからすぐに治るよ」

「食欲があるようでしたら、俺が粥を作って来ますが」

「ありがとう。お願い出来る?」

「は、お任せ下さい」

「では、その間に俺が身体を拭いてやろう」

「えっ」

「なっ」

「どうした、小鳥。そんな驚いた顔をして」

「だ、だって、山鳥毛さんが……」

「驚くことはない。近侍として、君の身体を労るのは当然のことだ」

「主の身の回りのお世話は、この長谷部が一手に任されている。余計な手出しは無用だ」

ここで張り合ってくるの、長谷部……。
確かに、遠征に行く前はずっと長谷部が近侍でお世話をして貰っていたけれど。

「後で自分でやりますから大丈夫です、山鳥毛さん」

「遠慮はいらない。まだこうして起きているのもつらいのだろう?それとも、俺のような新参者には任せられないか」

「そんなこと……!」

「では、安心して身を委ねてくれ。なに、心配はいらないさ。優しくする」

「山鳥毛さん……」

男前なのと美声なのとで、違う意味に聞こえてしまうから困る。

あと、長谷部はそこでギリギリしてないでお粥を作ってきてくれると嬉しい。

「すぐにお持ちします。……いいか、貴様、俺が戻って来るまで、主に指一本触れるなよ!」

長谷部が物凄い勢いで離れから出て行くと、山鳥毛さんもその後に続いた。
ほっとしたのも束の間、山鳥毛さんはその手に湯気を立てている桶とタオルを持ってすぐに戻って来た。

「さあ、小鳥」

山鳥毛さんが傍らに膝をついて促す。

「でも、あの、……」

「早くしないと湯が冷めてしまうぞ。失礼する」

山鳥毛さんは先ほど私に羽織らせた上着を取ると、帯に手をかけた。
しゅるりと簡単に解かれてしまい慌てる私の身体を片腕に抱え込み、もう片腕で浴衣を脱がせにかかる。

「君はこんなにも小さくて可憐だったのだな、小鳥。私の腕の中にすっぽりと包み込めてしまう」

「ふ、ふえぇ……!」

この後、出て行った時と同じくらい物凄い勢いで戻って来た長谷部によって、事なきを得た。

山鳥毛さんの大人の男の色気にあてられたのか、熱が上がって長谷部には心配をかけてしまった。ごめんね。


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