夕食の後、慶次がナイターに行くと言い出した。
ゲレンデで知り合った女の子達と約束していたらしい。


「君はナンパをしに来たのか、スキーをしに来たのか、どっちなんだ」

「まあまあ、そう怒んなよ半兵衛。だって女の子達だけじゃナイターは危ないだろ?タチの悪いのに絡まれたりするかもしれないしさ」

「行って来い、慶次。我は構わん」

「秀吉……」

半兵衛が苦虫を潰したような顔になる。
だがもうこうなってしまえば、慶次の思い通りだった。

「なんなら皆で行くかい?」

「いや、我と寧々は先に休ませて貰うとしよう」

「僕達も部屋に戻るよ。君はしっかりとボディガードを務めてくるといい。遭難しても骨ぐらいは拾ってあげるよ」

「おいおい、不吉な事言うなよ。ちゃんと気をつけるって!」

じゃあな、と手を振ってホテルのロビーに向かった慶次に手を振り返し、なまえはさっきも感じた何とも言えない微妙な物哀しさを味わっていた。
一人でどんどん行ってしまっているように見えるが、本当は逆で、慶次だけが立ち止まったまま取り残されているような、そんな気がしてならなかった。

いつまでも学生時代の気の合う仲間とわいわい楽しく…といったことは、年々難しくなっていく。
あるいは、将来慶次が身を固めたら、今度は皆で家族ぐるみの付き合いが出来るようになるのかもしれない。

「僕達も行こう、秀吉」

「うむ」

エレベーターの中で半兵衛と秀吉は明日の予定について話し、なまえはねねと何処のお土産屋さんに寄るのがいいか、どんな物を買っていくか相談し合った。

「ホテルのロビーにあったお土産屋さんに可愛いお菓子があったの。生徒達に買って行こうかと思ってるんだけど」

「いいと思います、お菓子。チャームとかストラップでもいいけど、かさばりますもんね。大人数用ならやっぱり消え物が一番だと思いますよ」

「やっぱりそうよね」

ポーン、とピアノの鍵盤を叩いたような柔らかい音が鳴り、エレベーターが到着した。
フロアは同じだが部屋は別々なので秀吉達とはここでお別れだ。

「ではまた明日、朝食の時間に」

「お休みなさい」

「お休み」

自分の部屋に向かって歩いていく秀吉達と別れ、半兵衛となまえも部屋の前に立った。
半兵衛がカードキーでドアを開き、二人で室内に入る。

レストランも居心地が悪かったわけではないけれど、綺麗に整えられた温かい室内に入るとやはり落ち着く。

ほっと息をついたなまえの後ろから二本の腕が伸びて来て、緩く巻き付いた。


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