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いけない。遅くなってしまった。
今日は大学が2限目までなので、安室さんと一緒に昼食を食べる約束をしているのだ。
急いで安室さんのマンションに向かう。

「きゃっ!」

「おっと」

曲がり角を曲がったところで男の人とぶつかってしまった。
硬い身体にばいんっと弾かれそうになったのを、男の人が抱き止めてくれる。

「あ、すみません!」

「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。すみませんでした」

黒いニット帽を被った男の人は、ふっと笑うと私から手を離し、そのまま歩き去って行った。
私も急がなくちゃ。

ようやく安室さんのマンションに到着し、ロビーのロックを合鍵で外してエレベーターへと駆け込む。
エレベーターが上昇する間に呼吸を整え、乱れているだろう髪を手ぐしでさっと直した。
安室さんの部屋の前に来たら、最終チェック。
うん、大丈夫。
ひとつ深呼吸をしてからインターフォンを押す。
と、まるで待ち構えていたようにすぐにドアが開いた。

「走って来なくても良かったのに」

完全にバレている。
さすがプライベート・アイ。

安室さんに引き寄せられて室内へ。

「…ん?」

「えっ、どうかしましたか?」

突然安室さんが険しい表情になったので何事かと驚く。

「なまえさん、ここに来る途中、誰かと会いましたか?」

「あ…そういえば、曲がり角を曲がった時に男の人とぶつかっちゃって」

「なるほど」

安室さんの表情が和らぐ。

「ドジですね」

「うっ……」

「本当に目が離せない人だ」

だから、君には僕がついていないと。
そう言った安室さんに優しく口付けられた。

「シャワーを浴びて来て下さい。匂いがついた服はその間に洗濯します」

有無を言わせぬ口調で言われて浴室へと追いやられる。
言われるままにシャワーを浴びて浴室を出ると、脱衣所には安室さんのものらしきシャツが置いてあった。
どんなに探しても下がないので、仕方なくシャツの裾を引っ張りながらダイニングに向かうと、キッチンからエプロンを着けた安室さんが顔を出した。

「今日は冷やし中華ですよ」

甘酸っぱいようなタレの匂いですぐにわかったけれど、改めて言われると途端に空腹感を覚えた。
ちょうどお腹がすく時間だ。

「安室さん、これ…」

「思った通りだ。可愛いですね。見えそうで見えないのがいい」

「安室さんのえっち!」

「君限定です」

しれっと言って、安室さんはキッチンに戻った。
私も慌てて彼の後を追う。

「手伝います」

「では、グラスを二つ出して貰えますか」

「はい」

グラスを二つ手にしてダイニングテーブルへ。
安室さんもすぐに冷やし中華の皿を持って現れた。
たった今茹でて冷水にさらしたと思われる麺といい、その上に放射状に並べられた具といい、とても美味しそうだ。

「いただきます」

向かい合わせに椅子に座って食べはじめる。

「美味しい!」

「君もね。凄く美味しそうだ」

安室さんの視線が、私のシャツの胸元からお腹の辺りへ、そして座るとギリギリな裾から出た太ももを舐めるように撫でた。
背筋がぞくぞくしてお腹の奥がじんと熱くなる。
私がこんなえっちな身体になったのは間違いなく安室さんのせいだ。

「さあ、早く食べて下さい」

「…食べ終わったら?」

「僕にそれを言わせるんですか?」

「安室さんのえっち!」

明るいダイニングに安室さんの快活な笑い声が響いた。
もちろん、その後で美味しく頂かれたのは言うまでもない。


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