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ルシファーの配下に、アガリアレプトという悪魔がいる。
世界中の宮廷や政府が秘している機密を明らかにし、どんなに崇高な謎でも解明してしまう力を持つとされている。

「見え透いた手口ですね。すぐにわかりましたよ、あなたの仕業だと」

今の安室さんはまさしくその悪魔のようだ。
口調こそ丁寧だが、冷酷なまでに容赦なく犯人を追い詰めていく。
その不敵な表情にときめくと同時に寒気を感じた。
始めて安室さんを怖いと思った。優しい人なのに。

「貴様っ…!」

追い詰められた犯人は激昂してこちらに向かって来た。
持っていたナイフをふりかざす。
素早く腕を引かれて安室さんの後ろに隠されたと思ったら、次の瞬間には犯人はその場に倒れ伏していた。
安室さんが凄まじい速さで打ち出した右ストレートが鳩尾にヒットしたのだ。

「やれやれ、こうまで予想通りとは」

こうなることまで読んでいたらしい安室さんが苦笑する。

「凄かったです、安室さん。ちょっと怖いくらいでした」

「いえ、僕なんてまだまだですよ。毛利先生の足下にも及びません」

「そんなことないですよ」

本当に毛利探偵より凄いと感じたのだ。
『眠りの小五郎』を間近で見たことがないからそのせいかもしれない。
普段の毛利探偵とはまるで別人のようだと言われているが、実際どうなのだろう。
探偵とは誰しも二面性を持っているものなのだろうか。
だとしたら慣れなければならない。

「でも、なまえさんにそう言って貰えるのは嬉しいですね」

「そう、ですか?」

「ええ。好きな人にはかっこいい姿を見せたいものですから」

「もう…またそんなこと言って」

「あれ?信じてくれないんですか?」

「だって、誰にでも言ってそうなんですもん」

「誰にでもじゃないですよ。君にだけです」

「本当ですか?」

「本当ですよ」

パトカーのサイレンが近づいてくる。
ようやく警察のご登場というわけだ。
犯人はまだ気絶したまま。
そんな状況で口説かれているのが不思議だった。

「またデートに誘って下さい。そうしたら信じます」

「わかりました。必ず」

警察が駆け込んで来る。
安室さんは事情を説明するために彼らのほうへ向き直った。

物腰柔らかく、笑顔が可愛くて、でも間違いなく内側に怖い“獣”を飼っている人。

警察に向かって今回の事件について説明している安室さんの声を聞きながら、私は密かに溜め息をついた。

本当に厄介な人を好きになってしまった、と。


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