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目が覚めると、やはり彼の姿はなかった。
腰のあたりにまとわりつく甘い倦怠感と、まだナカに入っているような感覚だけがしっかり残っている。
それらをシャワーで洗い流して、身支度を整えてからキッチンに向かった。

「おはよう」

「おはようございます」

エプロンを着けてキッチンに立つ彼。
姿は昴さんだが、声や話し方がまだ赤井さんのままだ。

「お手伝いします」

「では、皿を出してくれ。グラスも二つ」

「はい」

勝手知ったるなんとやらで、もう何がどこにしまわれているか大体わかる。
手早く用意をすると、その皿に出来立てのオムレツが乗せられた。
これも有希子さんに教わったのだろうか。
私よりも上手かもしれない。
その綺麗な形に感心していると、付け合わせのブロッコリーとにんじんのグラッセが追加された。

「嫌いなものはないか」

「大丈夫です」

赤井さんが作ってくれたものならなんでも食べますよ、と言えば、優しい手つきで頭を撫でられた。
そのままの流れで、おはようのキス。
下唇を食んでから離れていった唇を追いかけて、私からもキスをした。
すると、後頭部に手を回され、口付けがぐっと深くなる。
舌を絡めて、舐めあって。
ようやく唇が離れた時には、すっかり息があがっていた。

「……は、ぁ……」

「朝から積極的だな。大学は休むか?」

「赤井さんのえっち」

腰のあたりを撫でる大きな手の感触にゾクッと微かな快感を感じたが、それには気づかないふりをして食卓についた。
赤井さんは朝から性的だ。セクシーなオスの魅力を発散している。
それにあてられたらそれこそお休みするはめになるので、流されそうになるのを何とか堪えた。
赤井さんが男前すぎるのが悪い。

「いただきます」

「ああ。ゆっくり食べろ」

私が食べ始めると、赤井さんは向かいに座ってコーヒー片手にノートパソコンを開いた。
お隣の阿笠博士の家の様子をチェックしているのだ。
何かあれば、すぐに『隣人の沖矢昴』として駆けつけられるように。
盗聴なんて、と思われそうだが、これは家主の阿笠博士とコナンくん公認の護衛任務である。
哀ちゃんを陰から密かに守っているのだ。
当の哀ちゃんはまだ『昴さん』のことを信用しきれていないようだけど、彼が赤井秀一だと知らないのだから無理もない。

危ない、と言えば私も同じ。
赤井秀一の秘密を知ってしまった一般人として、危険な立場であることは間違いない。
何かあれば身を守る術がないので真っ先に狙われるだろう。
心配じゃないと言えば嘘になる。

「そんな顔をするな」

「赤井さん…」

「お前は命に代えても守ってやる」

この胸をあたため、時にキリキリと締め付ける、甘く切ない感情。
これを恋と呼ばずして何と呼ぼうか。

私は、この危険な匂いのする、誰よりも頼りになる愛情深い男に恋をしている。


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