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ここ数日涼しいからよく眠れる。
今日は土曜日なのに涼しすぎて肌寒さのあまり早く目が覚めてしまったが。
どうせ休みだし、ゆっくり眠ろうと寝直すことにした。

(……ん……紅茶の匂い?)

部屋に漂う紅茶の良い香りによって、浅い眠りから引き戻される。

「すみません、起こしてしまいましたね」

キッチンにいたのは安室さんだった。

「合鍵を頂いたので使わせてもらいました」

ティーポットからカップに注いだ紅茶をトレイに乗せてベッドまで運んで来てくれる。

「おはようございます、なまえさん」

「おはようございます、安室さん」

モーニングティーに丁度良いと、有り難く頂戴した。
喫茶店で淹れ慣れているだけあって相変わらず美味しい。

「実はこれから仕事で遠方へ行くので、その前になまえさんに会っておきたかったんです」

「お仕事ですか」

「だから、本当はあなたが起きてくれないかなと思って紅茶を淹れたんです。すみません」

「謝らないで下さい。私も安室さんに会いたかったから起こしてもらえて良かったです」

「ありがとうございます。ですが、そんな可愛らしいことを言われると攫っていってしまいたくなりますよ」

「安室さんになら攫われてもいいです」

両手で持っていた紅茶のカップを安室さんに奪われたかと思うと、彼は上半身を屈めて私にキスをした。

「攫っていくのは我慢します。お土産、楽しみにしていて下さいね」

「わあ、ありがとうございます!」

ふっと笑った安室さんにもう一度口付けられたので、私は目を閉じて彼の唇を受け入れた。
さっき飲んだ紅茶よりも甘いキス。

唇を離した安室さんは、それはそれは魅力的な甘い微笑みを浮かべていた。
見慣れているはずなのに思わずドキッとしてしまう。

「では、行って来ます」

「行ってらっしゃい。気をつけて」

安室さんはカップをトレイに乗せると、キッチンからティーポットを取って来てテーブルの上に置いた。

「温かいうちに飲んで下さいね」

「はい」

「それでは、また」

安室さんが部屋を出て行くと、突然肌寒さを感じて、ぶるっと身体を震わせた。

一人の部屋はこんなに寒かったのか。

安室さんがいる間は気がつかなかった。

「早く帰ってきてあたためて下さいね」

呟いた言葉がむなしく宙に漂い消えていく。

安室さんが残していった紅茶は温かく、やっぱり甘くてとても美味しかった。


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