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実家からたけのこが丸ごと三つも送られてきた。

日々バイトと勉強に追われる大学生の身としては、定期的に食材を送って来てくれるのは有り難いのだが、これはさすがに扱いに困る。
悩んだ末に、安室さんに連絡してみることにした。

『たけのこですか?』

「はい、結構大きいですけど、良かったら」

『喜んで頂きます。これから取りに伺っても?』

「もちろんです。お待ちしています」

電話を切った後で、慌ただしく部屋の中をチェックした。
よし、洗濯物も出しっぱなしになっていないし、綺麗に片付いている。
一応掃除したばかりだから大丈夫だと思うが、念のため粘着ローラーでコロコロもしておいた。
髪の毛一本たりとも落ちているところを見られたくない乙女心である。

それにしても、ちょうどタイミング良く安室さんに連絡がついて良かった。
ポアロのお仕事はともかく、私立探偵のお仕事のほうが不規則なので、なかなか難しいところなのだ。

そうするうちに、アパートの敷地内に車が入って来る音がして、それが止まった。
階段を上がってきた安室さんがインターホンを鳴らすのとほぼ同時にドアを開けて彼を出迎える。

「こんばんは、安室さん。わざわざありがとうございます」

「こんばんは、なまえさん。こちらこそお電話ありがとうございました。旬のたけのこを丸ごとなんて、正直有り難いです」

にこにこと。
いつも通りの笑顔だったが、どこか影があるような気がして心配になる。

「安室さん、ちゃんと寝てますか?」

「えっ」

「クマが出来てるし、凄く疲れているように見えたので」

安室さんは驚いたような顔をした後で、困ったように微笑んだ。

「まったく、あなたには敵わないな…」

「安室さん?」

「実はここ数日忙しくて徹夜続きだったんです」

「そうだったんですか…そんな大変な時に連絡してしまってすみません」

「いえ、なまえさんからの電話で元気が出ましたから。やっぱり愛の力は偉大ですね」

「もう、安室さん!今日はちゃんと寝て下さいね。仮眠じゃなくて、お布団で」

「はは」

笑って誤魔化されてしまった。

「はい、これがたけのこです」

「おお、これは立派なたけのこですね」

「どうですか、料理出来そうですか」

「ええ。これなら煮て、煮物やお吸い物に出来ますね」

「良かったらレシピを教えてもらえませんか?私も自分の分を料理してみます」

「いいですよ。えっと、メモ帳は…」

「あ、これ使って下さい」

私がメモ帳を渡すと、安室さんはそこにさらさらとたけのこの調理方法を書いてくれた。
お料理上手な男の人は最高だと改めて思う。

「なまえさん」

「はい?」

「沖矢昴には近付かないほうがいい」

「えっ」

「メモ帳に跡が残っていましたよ。『沖矢さんに借りた本を返しに行く』」

私立探偵こわい。
メモ帳にうっすら残ったペンの跡からそんなことまでバレてしまうなんて。

「工藤邸の書斎、ミステリーものが充実しているんです」

「それでもダメです。大体、男が一人で住んでいる家に遊びに行くなんて危険でしょう」

「大丈夫です。コナンくんも一緒なんですよ」

コナンくんの名前を出すと、安室さんは微妙な表情になった。

「とにかく、ダメです」

「安室さんの焼きもち焼き」

「そういうことにしておいて構いません」

むう、と返す言葉に困っていると、安室さんはフッと笑って私の額にキスを落とした。

「じゃあ、僕はこれで失礼します。たけのこ、ありがとうございました」

「私もありがとうございました。安室さんに会えて良かったです」

「僕もです。またいつでもポアロに来て下さい」

「はい、安室さん目当てでまたお邪魔します」

私の頭を撫でて、安室さんは帰っていった。
ドアを閉める前に、「僕が帰ったらすぐ鍵をかけて下さい」と念を押してから。

私はむしろ安室さんのほうが心配だ。
今夜はちゃんとお布団で眠れるといいのだけど。


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