「これなんてどうでしょう?」 「ちょっと派手過ぎませんか」 「夏なんですから、これくらいでちょうどいいですよ」 昴さんは喉元を気にしながら、鏡に映る自分の姿を確認している。 ちゃんと例のチョーカー型変声機が隠れているかどうかを。 夏服が欲しいという昴さんに、是非私に選ばせて下さいとお願いしたところ、こころよく承諾してくれたので、張り切って選んでいる最中だった。 優しいピンク色のシャツは、夏服らしく薄手の生地で、昴さんの絶対条件である喉元がしっかり隠れるほど襟が長い。 何よりデザインがオシャレだ。 たまにはこんな明るい色合いのものも良いと思う。 赤井さんの時は大抵いつも黒のタートルネックだからなあ。 「サイズはどうですか。きつかったりしません?」 「大丈夫です」 何しろ昴さんはガタイが良いので、気に入った服でもサイズが合わない場合がある。 今回は合格のようで良かった。 「それから、これとこれも着てみて下さい」 「君がそう言うなら」 恭しく言って昴さんは再び試着室の中へ入っていった。 女性の店員さんによる羨望の眼差しに見送られて。 結局、その日は4着のトップスを購入した。 「服なんて久しぶりに買いましたよ」 「今まではどうしてたんですか?」 「変装道具一式と一緒に有希子さんが用意してくれたので、それを着まわしていました」 「ああ、だからセンスが良い服ばかりだったんですね」 「おや、それはどういう意味ですか?」 「いえ…えっと、あ、ほら、もう着きますよ」 車をガレージに入れ、荷物を持って二人で工藤邸の中へ。 「さて」 変声機で声を戻した赤井さんが、その翠緑の瞳で私を見据えた。 あ、これヤバいやつだ。 「男が女性に服を買うのは、その服を脱がせるためだというが、逆もまたありなのかどうか、検討してみる必要がありそうだな」 「そ、そんなっ」 「先ほどの服を着てみるから、早速試してみよう」 「ちょっと待って下さい、赤井さん!」 「今は沖矢昴ですよ」 変声機のスイッチを入れて昴さんが言った。 ああ、もう、ややこしい! 「安心して下さい。どれだけ声を出そうが、お隣には聞こえませんから」 「安心出来ませんっ」 昴さんに肩に担がれて、彼が使っている客間へと連れて行かれる。 ナニをしようとしているかは、推して知るべしだ。 結論。 服を着たまま、というのは背徳的な感じがしてちょっとよかったな、なんて。 |