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「おいで」

テーブルとギターと段ボール箱が一つとベッドしかない、八畳の和室。
明かりを落としたその部屋で、先にベッドに入っていた零さんが薄い肌掛け布団を捲って私を誘う。
惜し気もなくさらされた引き締まった上半身、そして滑らかな褐色の肌が、私の足をその場に縫い止めてしまっていた。

「零さん、ちょっと冷房が効き過ぎていませんか?裸だと寒いでしょう。風邪をひいちゃいますよ」

「そんなやわな鍛え方はしていないさ」

わかっているはずなのに、わかっていないふりをする零さんはずるい。
私がいますぐ逃げ出したいほど恥ずかしがっていることも、それでも最後には零さんの思い通りに布団に入るしかないことも、優秀な頭脳の持ち主である彼には全てお見通しなはずなのだ。

「おいで」

もう一度零さんが私を呼ぶ。
絶対に拒めない、甘く優しい声で。

私は今度こそ抵抗出来ずに零さんの元へとふらふらと歩いていくしかなかった。

「君はあたたかいな」

ベッドに入った私をやんわりと抱き寄せて零さんが言った。

「やっぱり寒いんですね。シャツ着ましょう!シャツ!」

「こうしていれば寒くない」

ぎゅうぎゅう抱き締められながら零さんに頬擦りされて、私は完全に固まってしまった。
この人は自分の容姿が凶器になり得るということをわかっているのだろうか。
たぶんわかっていてやっているのだ。
本当にずるい人。

真っ赤になった顔を見られたくなくて顔を伏せれば、目に入って来るのは当然、零さんの裸身だ。
ミルクチョコレートの味がしそうな褐色の肌は滑らかで、密着した部分から筋肉の起伏を直に感じられる。
これはもはや色気という名の暴力だ。
ガツンガツン殴られて頭がくらくらした。

「おやすみ」

ちゅっと額にキスを落とされる。

「おやすみなさい、零さん」

零さんは少しもそもそと身じろぎすると、しっくりくる位置を見つけたらしく、力を抜いて眠る態勢に入った。
それはもう満足そうな顔で。
人肌のぬくもりが恋しかったのだろうかと、少しきゅんとしてしまう。
やがて零さんは静かに眠りに落ちていった。

おやすみなさい。零さん。良い夢を。

でも私は、とてもじゃないがこんな状態では眠れません。


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