クリスマスイブも当然の如く朝から仕事だった。 年末が急がしくなるのは公安も同じなのだ。 公安のエースと言えども例外ではなく、デスクワークを主とする雑務に追われることになる。 下手をするとこれは今日中に帰れないな、と降谷零は溜め息をついた。 だから、放っておいたら自分が帰るまで何時間でも待ち続けそうな恋人に、先に休むようにとメールしたのだが。 “イブなのに遅くまでお仕事お疲れさまです。ご飯とケーキ作って待ってますので、ゆっくり安全にお家に帰ってきてください” そんな返信をされたら帰らないわけにはいかない。 幸いにも優秀な部下の手伝いもあって、何とか真夜中過ぎには全て終わらせることが出来た。 愛車を飛ばして帰りたい気持ちをぐっと抑え、安全運転で自宅へと急ぐ。 マンションのエレベーターのドアが開くのを待つのももどかしく、急ぎ足で玄関まで行き、静かに鍵を開ける。 そっとドアを開いて室内へ入ると、中は暖かい空気で満たされていた。 まさか、とリビングに向かえば、やはりそこには愛しい恋人の姿があった。 暖房をつけて彼の帰りを待っていたのだろう。 そうする内にソファで眠ってしまったらしい。 テーブルの上には食器が並べられていて、ふと視線を向けたキッチンには、恐らくシチューなどが温めるだけにして用意してあるに違いない。 起こしてしまうのもかわいそうな気がして、降谷はなまえをそっと抱き上げようとした。 「ん……零さん?」 「ごめん。ただいま」 「お帰りなさい。遅くまでお疲れさまでした」 結局起こしてしまったか、と苦笑しながらも喜んでいる自分がいる。 大切に思う誰かに迎えて貰えるというのは有り難いことだ。 彼女と暮らすようになって降谷はそれを実感していた。 「ただいま」 もう一度言ってなまえに口づける。 「遅くなってごめん」 「大事なお仕事なんだから仕方ないですよ。私なら大丈夫です」 「イブなのに、何もしてやれなかった」 「零さんが私のところに帰って来てくれるだけで嬉しいです」 「君は欲がないな」 なまえを抱き上げようとした態勢のまま抱きしめる。 寝起きだからか、いつもよりあたたかい。 「外、寒かったでしょう?シャワー浴びてきて下さい」 「ああ、ありがとう」 なまえの頬にキスをしてから降谷はスーツの上着を脱いだ。 すかさずなまえがそれを受け取ってハンガーに掛ける。 浴室に行ってシャワーを浴びて戻って来ると、既にテーブルに料理が並べられていた。 「美味しそうだね」 「零さんには負けますけど、頑張りました」 「いや、嬉しいよ」 「ふふ、メリークリスマス、零さん」 「メリークリスマス、なまえ」 降谷はハンガーに掛けてあったスーツのポケットから小さな箱を取り出した。 「なまえ、これを」 「わあ、ありがとうございます!」 嬉しそうに箱を受け取ったなまえは、その中身を見て、「えっ」という顔をした。 「あの、零さん」 「俺と結婚してほしい」 箱の中身は指輪だった。 クリスマスに帰ってプロポーズをするつもりでポケットに忍ばせていたのだ。 「なまえ?」 「嬉しい…私なんかでよければ、よろしくお願いします」 「なまえだからいいんだよ。君以外考えられない」 「零さん…」 どちらともなく口づけを交わし、照れくさそうに笑いあいながら抱きしめ合う。 今日はクリスマス。 二人にとっては忘れられない聖夜となった。 |