今日は午前も午後もみっちり講義があったため、帰る頃には軽い疲労を感じていた。 まだ水曜日だというのに困ったものである。 休みまであと少しと思うものの、疲労感は薄れてくれない。 「ねえ、校門の所にかっこいい男の人がいるって!」 「見た見た!超絶イケメン!」 最後の講義を終えて帰り支度をしていたら、そんな会話が聞こえてきた。 誰かを迎えに来た彼氏だろうと、特に気にとめずに教室を出る。 外に出ると、そこには異様に盛り上がっている学生達の群れがあった。 主に女子が中心だが男子も混ざっている。 「外国人?」 「何歳くらいかな」 「三十路は行ってそう」 「ダンディだよねえ」 横を通り過ぎる時にそんな話し声が聞こえてきて、ようやくまさかと思いはじめた。 でも、だって、まさか、そんな。 「あの車知ってる。マスタングっていうんだよ」 間違いない。 私は急いで校門に向かった。 走っていく内に話題になっている人物の姿が見えて来る。 「赤井さん!」 思った通り、校門の所に立っていたのは赤井さんだった。 赤井さんは私を見ると、咥えていた煙草を携帯用灰皿にしまって、門柱に預けていた背を離した。 「突然来てすまない。だが、どうしても君の顔が見たくなってな」 「私も赤井さんに会えて嬉しいです」 「そうか」 赤井さんがフッと笑う。 ぽんぽんと頭を優しく叩かれると、背後できゃーっと黄色い歓声が上がった。 「ここは騒がしくてかなわんな。部屋まで送ろう」 「ありがとうございます」 マスタングの助手席のドアを開けてくれたので、中に乗り込む。 赤井さんもすぐに運転席に入ってきた。 「お嬢さん。シートベルトを忘れずに」 「ふふ、はい、しっかり締めました」 「また降谷くんに見つかってカーチェイスになると困るからな」 「今日はきっと大丈夫ですよ」 「君の勘を信じよう。帰ったら、シチューを作る予定だが、構わないかな?」 「赤井さんの手料理が食べられるなんて嬉しいです」 「では、行こうか」 滑るように車が動き出す。 明日、大学で知らない子達に囲まれてしまいそうだが、仕方がない。 いまはハンドルを握る赤井さんの横顔に見とれていたいから。 |