「すまない…」 何か言う前に赤司くんのほうが先に動いていた。 ぎゅうっと抱きしめられる。 「連絡しようにも端末が解約されていて、家に訪ねて行ったらもう引越した後で……探したよ」 何か言おうと思うのだが、声が出ない。 何を言えばいいのかわからない。 どうして?という思いで胸がいっぱいだった。 「傷つけてごめん」 抱きしめてくる彼の身体は熱くて、ああ、きっと走り回って探してくれたんだなとすぐに分かった。 でも、どうして…。 「その子から離れてくれないか」 柔らかいけれどひどく冷たい声がした。 それでも赤司くんの腕は離れない。 幸村さんが、怖いくらい真剣な顔で赤司くんを見据えていた。 「村長として、俺にはその子を守る義務がある」 「そうか、七海が引越した先の…」 赤司くんの拘束がほんの僅かに緩んだ。 「そういうキミは、彼女の前の村の住人だろ?俺は幸村精市。この村の村長だ」 「赤司征十郎だ。七海が世話になったようだね」 「七海はもう俺の村の住人だ。その手を離して貰おうか」 「彼女に危害を加えるつもりはない」 「でも振ったんだろう?」 幸村さんの声が一段と棘を帯びた。 「振ってなどいない。ただ、勘違いさせてしまったことは後悔しているよ。あの時の自分を殴り倒してやりたいくらいにね」 「キミがどう考えようと、彼女を傷つけたのは事実だ。泣きはらした目で翌日には別の村に引越してくるほどにね」 あからさまに睨みつけるなんて真似はしない。 二人とも、ただ静かに、触れれば切れそうな鋭い殺気を纏って互いを見据えている。 背中を冷たい汗が伝うのを感じた。 怖い。 私はどうすればいいんだろう? |