新しい住みかとなる村は、自然が豊かで、美しい庭園があるところだった。
薔薇のアーチに、噴水を囲む色とりどりの花々。

「俺の趣味でね。ガーデニングをやってるんだ」

穏やかに微笑んで村長の幸村さんがそう説明してくれた。
住民は皆テニスをやるそうで、テニスコートやトレーニング設備も充実している。

「君の新しい家の庭にも、俺の植えた花があるけど、気にせず好きに変えてくれて構わないよ」

「いえ、とっても綺麗なお花だから嬉しいです。大切に育てます」

「ありがとう。そうしてくれると俺も嬉しいよ」

この村に来て、新しく我が家となる家の庭で迎えてくれた花々を見て、とても心を慰められた。
あたたかい気持ちにしてくれた花達を、大事にしてあげたいと思う。

「生活に関しては、基本は前の村と同じだと考えてくれていい。散歩をしたり、昆虫採集をしたり、住人達と交流をしたり、君の自由に過ごしてくれて構わないよ。何か困った事があれば何でも言ってくれ。相談に乗るから」

「はい、ありがとうございます」

「ただ、虫採りはちょっと遠出することになるかな。南の海に小さな島があってね、お金を稼ぎたいならそこまで行かないといけないから少し大変かもしれない」

「分かりました。大丈夫です」

一人で無心に虫を追いかけられるならそのほうがいい。
逆に嫌な事を忘れられていいかもしれない。

「引越してきたばかりで悪いけど、後で皆に紹介するから時間をとって貰えるかな」

「はい、よろしくお願いします」

私はぺこりと頭を下げたのだが。

「ひゃんっ!?」

突然襲った鋭い感覚にびくっとなってしまう。

「な、な、な、」

「あ、ごめん。美味しそうだったから、つい」

幸村さんが私の白いウサギ耳をかぷっと噛んだのだ。
甘噛みだったけれど、充分びっくりしてしまった。

「でも、そうか、耳が弱いんだね…フフ…」

耳を手で庇う私に、「ほら、俺、狼だから」なんて幸村さんが楽しそうに笑う。

「幸村、今妙な声が聞こえたが…」

入口から誰かが入って来た。
立派なライオンさんだ。

「ああ、新しい住人になる子が来たんだ。彼女が七海さんだよ。ほら、可愛いだろう?」

幸村さんが小さい子供にするように私をヒョイと抱き上げて真田と呼んだ人に見せる。

「あ、よろしくお願いしま…きゃんっ!」

また幸村さんだ。
今度は耳をはむっと食まれた。

「お、おい、幸村…」

「ん?」

幸村さんは後ろから抱きしめるようにして私を抱っこして、首筋に唇を寄せた。

「それは、村長のお前がやったら、パワハラやセクハラになるのではないのか?」

真田さんがいいこと言った。

「なら、恋人同士になれば問題ないということだね」

「えっ!?」

「これから俺は本気で君を口説くから。覚悟してくれ。俺が本気を出したら…凄いよ?」

ふふ、と笑った幸村さんに背筋がゾクゾクした。耳もぴるぴる震えた。
どう凄いのか、出来れば知りたくない。


こうして、立海村での新しい生活がスタートした。



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