「長谷部、寒くない?」

「俺は問題ありません。主こそ、お寒くありませんか」

「長谷部と一緒だから大丈夫」

「主…」

「あっ、こら、長谷部!」

「あなたが可愛らしいことを仰るから」

それは往来でキスをした言い訳にはならないと、ぐいと身体を押し離して歩き出せば、従順な様子でぴたりと後をついてくる。

長谷部を伴って、クリスマスムード一色に染まる街に出たのは、ちょうどイヴの夜のことだった。
前もって申請していた外出許可がギリギリで認められたのだ。

本当は皆も連れて来たかったのだが、近侍のみ護衛として同伴を認めるとのことで、泣く泣く諦めざるを得なかった。
本丸を出る際、見送りに来てくれた皆にお土産を買って帰ると約束してきたので、まずはクリスマスマーケットへ。

「初めて来たけど賑やかだね」

「審神者になられる以前においでになったことがあるのだと思っていました」

「クリスマスの日は大抵仕事だったからなあ」

「では、こうして店を見ながら歩くのも初めてなのですね」

「そう、長谷部とが初めてだよ」

「お供出来て光栄です」

帰ったら燭台切に自慢しますと、本気か冗談かわからないことを言うので、思わず笑ってしまった。
些細なことが、こんなにも嬉しくて楽しい。

「主、こちらで少々お待ち下さい」

ガーデンテーブルの椅子に座らされて、どこかへ向かう広い背中を眺める。
張り切って随分たくさん土産を買ってしまったから、少し休憩しようと思ったのだろう。

「お待たせしました」

やがて、ベリー&アップルのホットラムカクテルのコップを両手に長谷部が戻ってきた。

「どうぞ。これが一番身体が温まるそうです」

「ありがとう、長谷部」

ありがたく受け取って飲みながら、長谷部を見つめる。
今日の彼は現世の人々に混ざってわからないように普通の男性の格好をしている。
黒いハイネックのセーターも、グレージュのロングコートも、脚の長さが強調されている細身のスラックスも、引き締まった身体にとてもよく似合っていて素敵だ。
近くを通った若い女の子のグループが、彼を見てはしゃいだ声をあげる程に。
椅子に座ってカクテルを飲んでいるだけで様になるのだから凄い。

「身体もあたたまったし、そろそろイルミネーションを見に行こうか」

「はい」

素直に立ち上がった長谷部と並んで歩き出す。
クリスマスマーケットから少し歩いた先の並木道が、ここからでもわかるほど青く染まっていた。
人工の灯りだとわかっていてもやはり美しい。

「“青の洞窟”っていうんだって」

「なるほど。確かに辺り一面青一色ですね」

もう少し歩くと、今度はシャンパンゴールドのイルミネーションが華やかな公園にたどり着いた。

「綺麗だね」

「ええ、本当に」

「長谷部と一緒に見られて嬉しい。来年はどうなるかわからないから……」

時間遡行軍との攻防は日に日に激しさを増している。
つい先日などは、顔見知りの審神者の部隊が危うく全滅しかけたと聞き、明日は我が身かと肝を冷やしたばかりだ。

「あなたは俺がお護りします」

「長谷部…」

「あなたも、あなたが大切に思う者達も、必ずやこの俺が護ってみせます」

長谷部の煤色の髪がイルミネーションに照らされて鈍色に光って見える。
綺麗だ、と思った。
こちらを真っ直ぐ見つめてくる青紫の瞳も。

なまえがこの手で顕現させた付喪神である彼。
その一振りにこんなにも心を奪われてしまっている。

「俺を信じて下さい。主命とあらば、絶対に遡行軍などに負けたりは致しません」

「うん……うん、信じてる」

長谷部の胸元に縋りつくと、背中に両腕が回されて優しく抱きしめられた。
イルミネーションに照らされながら、互いの温もりを求めて抱きしめ合う。

「絶対に折れたりしないでね……私を置いて死なないで」

「ええ、俺はあなたの刀ですから」

誇らしげなその台詞が、いまはとても頼もしく聞こえた。

彼を喪いたくない。

聖夜の奇跡に彼が無事に戻ってきてくれることを願わずにはいられなかった。


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