御伽噺のように、
らんさんより。
ティアドロップのお二人と荊兎の競演です。



ふわふわの綿菓子を人にしたら、多分こうなるのだろう。でも綿菓子と言っても、屋台の俗っぽさとか、スーパーの安っぽさとは無縁な、例えば有名なパティシエが自分のパティシエ生命をかけて作り上げた綿菓子でないと、たぶんこの美麗な少年にはなり得ない。それくらい高尚で、優美で、繊細な人だった。


「はじめ、まして。」


「はじめまして」


スタジオの休憩所が恐ろしく似合わない。自販機とパイプ椅子と缶コーヒーより、薔薇園と猫足の椅子とティーセットが似合うだろう少年と、あまりたくさん会話がつづくことはなかった。気まずいというわけではなく、単に話題がないのだ。
俺は特にすることもなくその金糸のような髪や宝石を並べたような瞳を眺めていた。眩いばかりの容姿は、どこか作り物のようにさえ感じるほど、思わず溜息が出るほどに、


「綺麗だね……」


不意に自分の心がこぼれたのかと思った。けれど、その言葉は目の前の美しい少年、否、青年から発せられていた。青年の瞳は俺の髪に向かって視線を合わせており、その人形のような精巧な作りの白い手が俺の頭を撫でた。


「お兄さん、」


「えっ?」


俺から話しかけられることに驚いたのだろうか、青年は目を見開いた。


「あっ、驚かせてしまってすみません……」


「えっと、ちがくて……その、よく僕が男、いや年上だって解ったね?」


「えっ?」


そこだったのか。どう見ても年上だし男性だと思っていた。ああ、またやってしまったらしい。俺はしばしば、女装家の方だとか、実年齢でも若く見えると言われている方の本当の年齢に気がついてしまうことがあった。多分小さな頃から色々な人を見続けた弊害なのだと思う。良く考えれば今日の「撮影」の少女役は彼なのだろうと気がつく。しまった観察が足りなかった。


「失礼ですが僕は一目で男性だとお見受けしました。不快な思いをさせてしまいましたか?」


「あ、いやそういうわけでは……」


そこまで青年が言いかけたとき、どさりと誰かがパイプ椅子に腰掛けた。無遠慮に青年に椅子を近づける。なにかのディレクターだろうか。少なくとも今回の撮影の関係者ではなさそうだ。


「お嬢ちゃん可愛いねぇー!!なんだっけ、こう言うフリフリの!」


べたべたと青年に触る。青年が嫌そうに顔をしかめて体ごと避けた。それでも男は懲りずに青年に近づく。うわぁ、迷惑な人だなぁ。


「やめてください」


青年が嫌がっていることに気がつかないのか、男は青年を触り続ける。さらに、あろうことかポケットからタバコを取り出し火をつけた。
その途端、青年の顔色が変わった。これは嫌がっているというより、怯えている。それにもやはり気がつかない男は、青年にタバコを近づけた。


「お嬢ちゃんも吸ってみるかい?」


「……ひぃっ」


「あの、」


これは、静観している場合ではないと思う前に口を開いていた。喧嘩早い性格を治すにはまだ少し時間がかかるようだと冷静に思いながらも男と青年の間に入り、青年を後ろに遠ざける。

「んん?」


「ここ、禁煙ですよ。それと、初対面の方にその態度はないと思います。」


そう言うと男は立ち上がり、俺の胸倉を掴み上げようとした。その瞬間、


「おい。」


不機嫌そうな声。恐らく衣装のままだから、あまり暴れないでねとだけ忠告したけれど多分聞こえてないだろうな。
その辺の人よりだいぶ身長が高いのでそれだけで男はびびったようで男はすでに震えていた。そのため俺は乱入してきた彼、碧を止めた。


「そのへんにしてあげて。」


「えー」


「そろそろ俺の撮影始まる時間なんだけど」


「……ちっ」


すでに腰を抜かしたディレクターを投げるように放して、碧はスタジオのほうに向かった。


「大丈夫ですか?」


「はい、ありがとうございました。」


「よかった。行きましょうか、撮影の時間です、お嬢様」


差し出した手を青年が取ってくれたことが嬉しくて、誇らしくて、俺は上機嫌にスタジオに向かった。「王子様」役のジャケットを翻しながら。



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