遊戯王小説 | ナノ

君が消えた、否、魂のあるべき場所へと帰った
あの時からボクらの物語が始まった
だけど
君のいなくなったその溝は
簡単には埋まるものではなかった






還る、返る、変える





 彼方に沈み行く夕日が教室を赤く染めていく。赤と黒のコントラスト。静かにその様子を教室の片隅で眺める。
 教室の一番後ろの、扉から一番遠い席。それが今の遊戯の席となっている。
 彼の周りにはいつもの賑やかメンバーは誰もいない。彼らは全員、随分前に下校している。ここ最近では何時もの事。
 遊戯はあの長い長い夏休みを過ぎた頃からこうして時間も忘れて、一人誰もいない教室に居座るが多くなった。一人、また一人と減っていくクラスメイトを見送ることなく、何かを考えるわけでもなく、ただそこにいるだけ。
遊戯の妙な行動。最初は気にかけていた仲間達も、今では彼の好きなようにさせてくれている。
仲間たちの優しさは嬉しいし、自分の異常さも感じていた。だからこそ、何をしているんだと何度も自問自答を繰り返す。ただ、いつまでたってもその答えが出ることはなく、結果、日の沈んだグランドにライトが点るまで居座り続けていた。
そんな風に毎日を過ごしているといつの間にか季節は夏から秋へと移り変わる。次第に夕日が教室を染めてグランドにライトが点るまでの間隔が短くなる。それに伴い遊戯の帰宅時間が早まる。
 そのことが悲しくて悔しいような、しかしどこか嬉しいような何とも言えない気持ちとなる遊戯。ふと何を思ったのか、窓の外に目を向けた。そこにはちょうど、太陽が最後の輝きだと言わんばかりに神々しいまでの光を放っていた。それはまるで“彼”があの門をくぐって行った時の様な、どこまでも純粋な光。
 無意識のうちにあの時の記憶に引っ張られる。外から視線を外し、机の上に置いた両手をぎゅっと握りしめて唇をきつく噛みしめる。まるで太陽自信を拒むかのよう。あながち間違えではない。彼と関わりを持つ者全員が言いようのない想いを抱え、気持ちに整理の付け切れていない中、特に彼と近かった遊戯は誰よりも心の中がぐちゃぐちゃとなっていた。
 別れをもたらした儀式。あの時、遊戯自身は自分の心を固くし、並々ならぬ覚悟を決めて挑んだ。それが彼に対する礼儀であると思ったからだ。しかし今になってその選択が間違えではなかったかと言う思いが常に付きまとうようになった。負ければよかったのではないか、受けるべきではなかったのではないかと言う、後悔の念が。
 遊戯を通してでしか彼を認識できなかった周りと常に傍で彼と共にいた遊戯。失ったものは同じでも遊戯と他者とでは大きな差がある。
 彼と最も近い存在であったことが、彼と共にあるときには誇りであったが今は違う。苦しくて苦しくて、息が止まりそうになって仕方がない。いろんなことを考えれば考えるほど、ぐるぐると思考は渦を巻き、出口の見えない暗い思考に呑みこまれていく。
 今日も思考に飲み込まれる、そう思った瞬間、強烈な光により遮られた。窓の外を見ると、グランドのライトが点灯していた。
 近頃は本当に日が沈むのが早い。あたりは闇に覆われ、照明の点いていない教室にライトの光だけが照らす。
 遊戯にとってライトの点灯は帰宅の合図。そろそろ帰らないといけない。机の横にかけた鞄を背負い、深く息を吐い教室の出口へと向かう。
 出口の扉に手を置き、一回だけ後ろを振り向いた。


 その瞬間、“彼”が見えた気がした。





2010/06/19
2013/01/20修正




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