TOA小説 | ナノ
 明るい日差し、降り注ぐ太陽。そして青空。どれもこれも、つい数日前まで見つめることさえできなかった“色”だ。
 これらは全て、一人の少年が作り出した奇跡の色。世界中が待ち侘びた、平穏の色。しかしそれは同時に、少年の命を喰らって産まれた暗黒の色でもあった。

「ティアさんに秘密のお話があるですの」

 そう言って呼び止められたティアが、聖獣と崇められる小さな魔物から彼の秘密を聞いたのはつい先ほど。彼の“秘密の話”を聞いた瞬間、鈍器で殴られたかのような錯覚に陥る。そして、彼女の中に、どうしようもない程の悲しみと怒りが込み上げてきた。彼女はその衝撃のせいで、その場に小さな彼をその場に置き去りにし、屋敷に飛び入ってしまった。
 そして今、彼女は彼の前で佇む。夢中でかけていたら、いつの間にか此処に着いてしまっていた。

「どうしよう……」

 何の計画もないまま此処まで来てしまったティア。彼女は、目の前に立ちはだかる“巨大”な扉を叩くのをためらっていた。
 本当のことを聞いてどうするのか。聞いてどうにか出来るのか。ただ彼をやみくもに傷付けてしまうだけではないか。ここに来て彼女はこんな思いばかりが頭をよぎり、途端に体の自由が奪われてしまった。
 ティアの背後からは小鳥の囀りばかりが聞こえ、仲間達の声も屋敷の者達の声も聞こえない。此処には恐ろしいほど穏やかな時間が流れている。ふとティアは、ユリアシティにある自宅の中庭での出来ことを思い出した。彼はあそこで髪を切り、今までの自分と別れを告げたのだ。
 あの時彼はなんと言っていたか。確か、自分が出来ることから始めると言ってはいなかったか。いや、確かではなく、絶対にそう言った。だから自分は、彼のことを見ていると約束したのだ。
 疑問から真実が見えたとき、ここで立ち止まっている自分が可笑しくなり、ティアは自嘲気味に笑みを零した。
 こんなところで立ち止まっていても、何も変わらない。そう、替わりやしないのだ。さあ、一歩踏み出して今を変えなくては。彼の為に、そして自分の為に。
 意を決してティアは、震える手で目の前のドアを叩く。その後には当然、彼の声が返ってくる。

「ルーク、ちょっといいかしら」

 自分は手だけでなく、声まで震えていたのか。彼の声を扉ごしに聞いただけで、ティアは何故だか涙がでて来てしまいそうになった。しかし、だからといって止めるわけにはいかない。進まなくてはいけない。例え彼から返って来た言葉が、あの小さな聖獣の言うことと同じだとしても、ティアは受け止めなくてはならない。その覚悟をしたからこそ、ドアを叩いたのだ。
 自分に呪文のように、その言葉を繰り返しいい聞かせ、ティアは扉のノブをそっと回す。
 段々と開かれる扉。その向こうに見える、彼の赤い髪。これから彼女は絶望へと突き落とされる。それでも彼女は扉を開けるのをやめやしない。それは、僅かながらでも、温かな希望を信じているからだ。





Please give the future to me.


私に、私達に未来をください





2009/10/08





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