TOA小説 | ナノ
 ノエルがルークと出会ったとき、既に隣にはティアがいた。常に寄り添っているわけではなくただ相手が必要なときに隣にいる、それだけなのだ。
 しかしそれでもノエルは羨ましかった。彼女が彼の隣にいることが。そして悔しかった。自分が彼の隣にいられないことが。
 そういえば、と、不意に出会った直ぐの頃を思い出した。
 何事にも一生懸命で、でも不器用ですぐに失敗して、だけどめげずに挑戦し続ける。いつも笑顔を絶やさないでいたあの姿はノエルにとってとても眩しかった。
 何時だったか、そんなことをルークとティアを除いたメンバー達の前で話したら、

「昔はこんなんじゃなかったんだよ〜」とアニスが言い、

「我が儘お坊ちゃんでしたからねぇ」とジェイドがにこやかに告げた。

 そして、他のメンバーも口々に、昔と変わったと言葉少なくノエルに教えてくれた。
 するとノエルはこともあろうに、昔の傍若無人だったルークも会ってみたかった等と言い出した。
 その途端、全員の目が点になる。昔のルークと会いたかったなんて人間がいるとは、と。そして告げる。

「会わなかった方がよかった」と。

 丁度そこで買い物に出ていたルークとティアがアルビオールに戻って来たので、話はそれっきりとなった。
 しかしノエルは考えた。好きになった人を昔から見ていたかったと思うことは変なことなのか。
 その答えを見つけられないままアブソーブゲートでヴァンを倒し、メンバー達は散り散りになった。
 出来ることならもう一度会いたい。何度そう思っていたか、自分でも思い出せない。仕事を投げ出そうかと思った時さえあった。
 しかし少し経って、彼女の願は叶った。ほんの少しの間の幸せな時間。
 いつの間にか時間が経ち、いつの間にかまた皆が集まり、残酷な未来に向かって進み出した。
 そして今、再び集結したメンバー達は最後の戦いを明日に控えている。
 ケセドニアの夕暮れ。ルークとティアをアルビオールの屋根に上がらせ、二人に景色を堪能してもらっている。

(これでよかったのよね)

 いままでずっと二人を見ていた。
 特にこの何ヶ月ほどはほぼ毎日、二人を視界に入れていた。そして気付いたのだ。この二人の絆には勝てないと。
 ティアのことは嫌いではなかった。いつも凛としていて、しかし優しさを失わず相手を優しく包み込むような彼女。憧れの方が強かったのかもしれない。
 だからこそ、そんな彼女がルークの隣にいたからこそ、彼のことが諦められたのかもしれない。

(……よかったのよ)

 泣きそうになりながら、人生初の失恋をした。告白も出来ずに、ただ自己完結の恋だった。
 それなら何故、涙が出るの?
 震える体を、抱いたミュウごと抱き寄せて堪える。自分を気にかける小さな聖獣の声が遠くに聞こえる。
 そうしてノエルは日が落ち、肌寒くなった屋根から下りて来た二人に気付くまで、ずっと体の震えに堪えていた。
 そう、ずっと。





ふるえていたのは誰




他でもない、この私





ひよこ屋】様『冬のお題』より
2009/10/25
ノエルはルークのことが好きだったのではと思ってできた作品です。
アビスの女性陣は強い子ばかりですが、彼女もまたいろんな意味で強い子だと思います。