似た者同士って合わないらしいよ
「...っ」
人が涙目になっているのを見るのが好きだ。喉の奥が熱くなって、今までに何度生唾を飲み込んだことか。僕の好奇心が疼いて仕方がないときには今こうしているように君の好きなものを僕の嫌いな順に壊していく。
人前では強気で我儘で乱暴な君が絶望の淵に立たされているのは軍隊蟻の群れに襲われて今にも死んでしまいそうなスズメバチと言うところか。それとも親友だと思っていたブルートゥスに裏切られ両手で自分の顔を覆い隠すカエサルか。
どちらにせよ僕にとってそれは耽美で頽廃的な廃墟くらい魅力的な訳で、飽かせることなく僕の胸を踊らせ続けた。
「...どうして」
5歳の時に赤いクマのぬいぐるみの手足をもいでやった。クマが赤いなんて趣味が悪いだろう。だからもいでやった。余りに泣きわめくものだから頭も引きちぎってやった。
12歳の時に両親を殺してやった。いつまでも子離れできていない親なんて気持ちが悪い。だから殺してやった。潰れた車の中で君も死んだかと思ったがどうやら運が良いらしい。よって僕の両親もいなくなるわけだがそんなことはどうでもよかった。
「おかしいだろ、こんなの」
ただ、散らばっているガラスには後悔した。そのガラスの中に入っていた写真は紛れもなく同じ顔をした僕たちの写真だった。いつから持っていたのだろうかと思わせるほど古び、色褪せていた。それが今まで、君の机の上に一つだけ置いてあったんだ。つまりは。
「もっと、嫌いになってよ」
ガラスを力一杯握りしめた。滴り落ちるのは血だけではなく。焦燥からか後悔からか敗北感からか全てを失ったような気がした。君に嫌われていることがその存在意義の全てだったのに。嫌いじゃなきゃ意味ないの、嫌いじゃなきゃ。ねえほら早くその口から嫌いって言ってよ。
「おかしいでしょ?嫌われてるのに好きなんだよ」
傷だらけの顔で笑わないでよ。そんな顔僕に見せないでよ。やめてよ。好きにならないでよ。本当に、おかしいよ。
痛いとは思わなかった。気付けば握ったガラス片を振り翳していた。目を刺した。左目が見えなくなった。重苦しいが笑えた。君はどんな顔をしているのだろうか。悲しむ?怒る?..あぁ、喜ぶ?
ぼやけている右目と使い物にならない左目では確認できなかった。
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