夏って暑いから
「かき氷食べたい」
分厚い本と睨めっこする君が、いや睨めっこというよりは一方的に好意的な目を向けている方が正しいか。俺にもそんな目を向けて欲しい訳だけれど。真冬にそんな唐突なことを言い出した。
「何なの急にどうしたの」
頬杖を付きながら答える僕は間違いなくにやけている。だろう。
「いやかき氷の話がさ、」
彼女は周囲に流されない代わりに本には影響を受けやすいらしい。そういえばこの間も『私、猫が嫌いなの』とか言い出したりして。本当は好きな癖に。
「氷、あったっけ」
冷凍庫を見る。二人分くらいはどうにか作れそうな量の氷がその隅にある。
「シロップはブルーハワイじゃなきゃ嫌よ」
「わかってますって。買いに行くからほら、本仕舞って」
本の虫である彼女はその好奇心故かブルーハワイを好む。青色がいいらしい。自然の食べ物にはない色だとか言って。
「え、買いに行くの?」
怪訝そうな顔をする。大層な面倒臭がり。
「当たり前、ないんだから」
「じゃ、諦めた」
再び視線を元に戻す君。横顔は俺の知ってる君の中で一番好き。眼鏡越しに見るのよりも数倍輝いて見える瞳。とか言って、眼鏡のせいじゃないか、その本が輝かせてるのか。俺を見るのは君にとってなんでもないものを見るような瞳と似てるんだもんな。何か、
「だーめ、俺が食べたいから行くの」
本よりも、俺を見ていて欲しい。その輝かせる瞳を、俺に向けて欲しい。そうだ、コンタクトにしようよ。君の可愛い顔が眼鏡で台無しなんだもの。
って本を取り上げちゃったついでに眼鏡も外しちゃって後ろから抱きついて。
そんなこと思ってみたり。
「え、やだめんどくさい」
....そんな言葉で一蹴されるんだけどね
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