華麗なるシュヴァーンの活躍によりまぁ関与してるだろうねって議員が一週間かけて謎の不審死をした。あのリストに載っていた人間、結構多かったんだけども全て完遂済み。今回の事件の有力な人物から順繰りに次々に没していくとか、議員たちにとっては恐怖でしかなかっただろう。シュヴァーンが有能すぎて怖い。
表向きは不審死、あるいは急な病死と公表されているが大体の人間たちはそうじゃないということをちゃんと理解している。表向きの公表もしていないところはどうするんだろうな。病気で伏せているということにするんだろうか。まぁ日が経たないうちに病死となるだろう。
帝都の門の封鎖は解除された。
帝都に住む人々は門が開かれたことでいつもの日常が戻ってきたと安心したことだろう。
評議会の人間といえば、シンと静まり返っている。皆が皆、私の動向を窺っているようだ。
イエガーが定期報告の書簡を送ってきた。
内容は闇ギルドを無事乗っ取ったというものだった。
え? 何してるの? 私はただ抑えておいてくれって言っただけだよな?
うわ……闇ギルドの長の殺害方法まで書いてるよ。えぐいな。というかそんな事細かに書かなくても……。
シュヴァーンよりも酷い病み方をしているイエガーが怖い。これ、謀反とか起こされたら勝てる気がしないんだけども? 恨まれてるのが分かっているし、望まない二度目の生を押し付けてしまった負い目があるので抵抗するかどうか迷ってしまうし。
いや、私は私の役割を果たさないといけないのでもしそうなったら徹底的に抗って灸を据えてやるんだが。狂人相手に灸を据えるってどうやるんだろうな。分からない。
とりあえずギルドに潜入しているイエガーに形の残る書簡を送るのはまずいな。連絡役の部下に今の帝都の現状と、ギルドの運営を励むようにという言付けを頼む。
さて、騎士団本部がぶっ壊されたので建物の再建設とその間までの仮本部を……ウッ……大量の人員を収められるとこってどこだろう……。貴族街に無駄にある広いスペースを利用させてもらおうかなぁ無駄にあるんだしいいだろう一つぐらい。
最初っからやり直しだ。
人が生きているから再教育等の面倒は考えなくていいが、資金繰りが頭痛い。
皇帝が生きていたら騎士団本部を覆った古代魔導器を解除したという功績で恩赦とかもらえたかもしれないのにくっそくっそ先帝帰って来いよ黄泉の国で茶ァしばいてんじゃねぇぞお前の頭をしばかせてくれ。実際にそんなことしたら不敬どころの話じゃないがな。
現実逃避をしていても意味はないのでベッドの上から部下に次々に指示を出す。書類とか作ってる暇無くね? いやお金のやり取りとかはちゃんと紙に残してね。
騎士団本部が破壊されると分かっていたけども物品の運び出しとかはあまりしてないんだよな。
人が死ぬというのに物だけ避難させるとかどうなのよって感じだしもしそれが他の人間にバレたりしたら「アレクセイは騎士団本部が破壊されることを知っていたのになんの対処もしなかった」とか言われそうだし、……まぁ仕方ない。
だからって騎士団本部から引っ張り出してきたゴミを私の周りに集めるのやめなさい。ゴミ屋敷に住んでいる気分になってくるだろうが。なんの使い道も無いものを持って来られても虚しいだけなんだって。
そうは思いつつも騎士団本部に詰めていた者たちの思い出だ。今は瓦礫の下とはいえ、確かにあそこで日々を過ごしていたんだから。
使い道や価値が無かったとしても、大切に保管しておかないと。
仮本部の場所を貴族街の城に近いところに決める。黒とは言わないがグレーの評議会の人間に頼んで融資してもらう。ほら、これでお前の評価も上がっただろうし評議会の評価も上がる。私も嬉しいし騎士団と評議会が手を取り合って助け合うだなんて素晴らしいことだと思わないか?
評議会の人間全てが悪い人間ではない。今の自分の地位を失いたくない、ただの日和見が多いだけだ。その中で殊更性質の悪い奴がいる。それだけのことだから。
今のことを考えつつ未来のことも考える。
私は原作のアレクセイのような動きをしようと思う。
そうするためには、今から何をすればいいか。本編開始はあと数年の猶予があるな。あと数年しかない、とも言えるんだが。
とりあえず魔導器のことでお世話になっているアスピオの研究者たちに協力してもらおうか。今までも古代魔導器のことやその他諸々のことでよく話し合っていたのだが、これからはさらにお世話になることだろうし。
アスピオの研究員は私の指示でクリティア族を進んで雇用するようにしている。
ヘルメスは魔導器に関しては天才だった。それはきっと彼がクリティア族だったからというのもあるだろう。クリティア族にはナギーグがある。私は前の生も今の生も人間であるため、その特殊器官がどういったものなのか感覚が分からずなんとなくで理解しているが、その特殊器官は大雑把に言えば『感知し、共有する』というものだろう。
人間で言うところの『空気を読む』の最強版みたいな。
ミョルゾで壁画と一緒に情報を埋め込んでいたのをジュディスが読み取っていたので、それ以外の技術もあるのだろうがなんとなくそんな感じだろう。
ヘルメスは魔導器の声が聴こえると言っていた。彼が天才たらしめるのはそこだ。魔導器の声というよりも、それに嵌め込まれた魔核の意志や情報を無意識にでも読み取っていたのだろう。他のクリティア族に訊いてみれば魔核の声など聴こえないと言っていたので、ヘルメスはそういった感受性が高かったと思われる。
人間にも個体差があるのだからクリティア族にも個体差はあるだろう。
魔核の声が聴こえるというのは、非常に重要だ。
魔核を人間に置き換えてみるとよく分かる。人間はそれぞれ違う個体であり、能力も違う。得手不得手が当然のようにあり、得意分野では能力を発揮するが苦手なものをやらせると無駄に時間がかかり効率が悪くなる。
つまり、そういうことだ。
魔核の声が聴こえるというのは、選別ができるということだ。
人間から見れば魔核は全て同じに見える。どういった属性に偏っているのかという大雑把な分類は、調べるための魔導器にかければ分かるだろう。だが、それを調べて術式を刻み込んだとしても最高の効率化ができるかといえば疑問しかない。今のところ発掘される魔核にはほぼ全て術式が刻み込まれていてそこまで考えなくても良いのかもしれないが、私は先天的に魔導器の扱いに長けているのはクリティア族だと思っている。
自身はこれが得意だと言う声に耳を傾けて、相応しい場所に収めることができるというのは重要なことだ。
だが残念なことにクリティア族は穏やかな種族であることと、足るを知り今を十分に生きているので魔導器の研究に興味を持つことが少なく、クリティア族の研究員というのは非常に少ない。
クリティア族はお人好しが多いというか、誰か困っている人間を見つけたら助けてそれで満足してしまうような種族だ。なんなんだ、妖精さんか。上に立つ者、というよりもいいようにこき使われそうな……。クリティア族に比べると人間がどれだけ汚いか……いやまぁ考えないでおこう。
ヘルメスのような天才がまた現れれば良いなという期待を込めてクリティア族を積極的に雇用している
アスピオにはもう天才はいるが、あれはちょっとお転婆が過ぎるからなぁ。
アレクセイは本編で何をしていたかな、と頭の中でリスト化して一つ一つの準備に取り掛かる。
現状を立て直す為に部下に指示を出しつつ、アスピオの優秀な研究員に帝都の結界魔導器調べない? 楽しいよ? という通達を送り、評議会の動きを見つつ大事件で不安になっている帝都の者たちのケアに部下たちを派遣させて評議会の人間何もしないの? うぷぷと挑発しては尻を叩き金を出させ死んだ目兄弟をギルドに叩き出しつつ自身の怪我の療養に努める。
食事と睡眠は身体を作る重要な要素だよね。ということで仕事が無い時には積極的に食べて寝た。寝れなかったら睡眠薬を飲んででも寝た。睡眠の質? 知らんな。
大事件から二週間も経てば立つことは出来る。
ということで医者と喧嘩して仕事の場に復帰した。
団長服に身を包んで、鎧はまだ重いので軽量化しつつ城の中を歩く。
私は穏やかに笑って議会の場に出た。ほぅら、今日も景気よく議論をし合おうじゃないか。
遠回しに議員の不審死の犯人はお前じゃないのかーという追及には証拠はあるんですかねぇ〜〜〜でいいんだよ。そんな不用意な発言をするやつは私を貶めたいだけなんでしょうなぁ。いやいや非常に傷つく。ねぇ?
口だけ動かしてないでちゃんと働けば? と議論の矛先を修正して言い募る。裁判の被告人のような場所に立ち、評議会の人間に囲まれてボロクソに言われるのは別にいいんだ。だがそう言った人間の顔と発言はちゃんと結び付けて覚えているので後で覚えてろよ。言葉を費やして懐柔するか実力行使に出てやるからな。
仮の騎士団本部での仕事は、まぁそこそこ順調にいっていた。
評議会の人間はあまりに尻を叩かれすぎて難色を示しているが私が怖いのか一部は完全降伏状態だった。金を動かされすぎればこちらも困る! ということで喚いている者もいるが、まぁそこは仕方ないよな。分かった分かったグレーの奴らから搾り取るからコイツを生贄にするので皆協力してくれよな! 勝った。素晴らしき連帯感。ヴァ〜〜カ!!
評議会の人間に助けてもらってばっかりいるので騎士団の立ち位置、力関係が若干危ういがまぁ大丈夫だ。助け合いって素晴らしいよねぇ。いやホント、人類愛。
連日議会で喧嘩をしているのでストレスがマッハで髪が抜けるんじゃないかと心配していると、デュークが私の執務室に姿を現した。いつも通り窓から侵入してきたヤツは、いつも通りの涼しい顔だったので私は安心した。さすが俺達のラスボス様だ。建物の下敷きになったからと言って死ぬようなタマじゃないな。
「デューク! 良かった、無事だったんだな。お前のことだから生きているとは思ってはいたが、姿を見れて安心した」
「心配には及ばない。アレクセイ、動いていいのか」
「私か? 休んでいる暇なんて無いからな。まだ本調子ではないが、それでもベッドの上で何もせずに呆けている方が私としても疲れる。デュークの方はどうなんだ」
「……動ける程度には問題ない」
「お互い様か」
流石に未来のラスボス様も、死にはしないが人並みに怪我をするらしい。
私はそのことに少し動揺したが、彼が普通通りにしているからあまり触れるべきものでもないだろうと思った。……が、やはり気になるので一言断りを入れてファーストエイドをしておく。
デュークが訝しげに微かに首を傾げたのはなんだかおかしかった。
デュークはお茶会をしに来たのかと思ったが、どうやら私が前に頼んだ物を持ってきたようだった。
大量のエヴァライトの原石。ふぇえ……こんなにはいらなかったよぉ……。
私の周りの連中、予想外のことをしすぎである。
しかも小粒のものを大量に、ではなく結構な塊のものが多くて意識を飛ばしかけた。なんでこんなものをいっぱい持って来れるんだろうか。どこからの出か一応訊いてみると「……永年溜め込まれていたものだ」という言葉を貰った。待ってくれどこから取ってきたんだよ。
さらに突っ込んで訊こうかとも思ったがやめておいた。
まぁ……いいか。欲しいものが手に入って嬉しいな、でいいな。
デュークと話をするたびに大きく溜息を吐いて妥協している気がする。
とりあえず、これでようやくシュヴァーンの剣が作れるんだが、他のものはどうするかと考える。
イエガーにも横流ししてやるか。全てをやるわけにはいかないから、武器一つ分ぐらいに抑えて、それでもまだ余りそうだ。私はデュークにエヴァライト製の防具でもいらないかと持ち掛けた。騎士団本部でのことで感謝しているし、何かしてやりたいんだが。
デュークはしばらくの間無言で私を見て「……頼もう」と言った。
め、珍しい……。デュークが防具を欲しがった? 奇跡なんじゃないか……?
デュークの戦い方は皇帝の御前試合で打ち合ったので分かる。
とりあえず利き腕ではない方の腕を守る籠手はいる。エヴァライトの優秀なところは薄く伸ばしても強度が確保されるというところだな。薄ければ軽いし、動きの邪魔にならない。エアルの伝達率も高いので術技を放つ時に強力なものが撃てる。
エヴァライトに魔核を埋め込んで、とも考えたがエアルの伝達率にむしろ邪魔になってしまう。魔核が流し込まれたエアルを効率良く、瞬時に増幅させるための術式は複雑になるだろうしな。そのままでも非常に優秀なんだからそれでいいだろう。
それに魔核は聖核を砕いたもので、始祖の隷長の魂を使っているものだ。デュークがそれを欲しがるとは思えなかった。
ギルド、魂の鉄槌に依頼するかと考え込んでいると、デュークが私のことをじっと観察しているのに気付いた。
「どうかしたか?」
「アレクセイ。お前は世界に何を望む」
「またいきなりのことを。知っているだろう? 正しい者が正しく生きていける、誰も苦しむ必要が無い、皆が平等に笑い合える世界だ」
「その世界にいるのは人だけか」
デュークの言葉にしばらく考える。
真っ直ぐに私を見る目は、強い。私の真意を探ろうとする目に苦笑した。
あぁ、分かっている。分かっているよ、デューク。お前が求めているものがなんなのかを私は知っている。
「そんなことは無い。……始祖の隷長も、その重い役目を担わないで済むような、そんな世界だ」
私の言葉にデュークは目を瞠った。
「何故、お前はそんなことまで知っている」
「悪いが言うことはできない」
「……始祖の隷長の役目を、どう解消する」
「そうだな。エアルを乱しているのは魔導器だ。それを全て壊してしまおうか」
「どうやるつもりだ」
「魔導器間でネットワークを作る。実は言うと前々からこの試行はされているんだぞ? 発掘された魔導器の修理がてらにその機構が取り付けられている。魔導器を全て繋げて壊すことも可能だ」
「夢を語るか。それ以前の既存の物はそれに含まれないということだろう。なら無意味だ」
「そうでもないさ。数が多く、力が強ければ強制的に繋ぐこともできる。まぁ受け手である魔導器にはそういった機構が無いだろうから、破壊目的にしか使えないかもしれないがな」
「……できるのか?」
「できるとも」
知らねぇけどな。
デュークの目を真っ直ぐに見つめ返し、力強く言い放つ。
そんなことができるだなんて知らない。というか多分できないだろうな。
そんな簡単なものじゃない。恐らくあの大天才であるヘルメスでも難しいだろう。
できたとしても、破壊ということは力場が発生して周囲を破壊する恐れがある。こんなに魔導器が普及している世界なんだ。そんなことをしてしまえばテルカ・リュミレースの地表は全て吹っ飛んでしまうだろう。
……いや、待てよ。できるのか? 本編でのガスファロストはそういった役目を担っていたはずだ。……私が、あまり魔導器に熱心でない私ができるのだろうか。いや、アスピオには優秀な人間たちが多くいる。彼らに任せてしまえばいいのではないか。
確か……そうだ、本編でアレクセイ没後の……没後だったか? そこはどうでもいいか。ガスファロストの機構を見たリタがその完成された術式を見て唸っていたはずだ。ということは……できるんだろうな。
私はアレクセイではない。だが、アレクセイに成り切らなくてはならない。
今はそんなことは考えなくていい。
そんな絵空事がまだ実現していないことでもいい。
今この場では、ただデュークを説得できればいいんだ。
夢を語ろう。お前の欲しい夢だ。お前が望むであろう夢だ。
私は夢を語ってお前に言い聞かせてやるよ。そして私を信用すればいい。
その力を貸せばいい。私はそれを使って面白おかしく原作を再現するだけだ。
さぁデューク。私を信用しろ。夢に溺れてしまえ。……さぁ、デューク。
「…………古代文明が成し得なかったことを、お前はしようというのか」
「あぁそうだ。古代文明の者たちは詰めが甘かったんだ。魔核を残し、筐体もそのままにするだなんて後でまた使ってくださいと言っているようなものだ。今度はそんなことをさせず、徹底的に破壊してしまおう」
「…………何故、お前はそうする。お前の欲しい、帝国の者共の安寧とは真逆の事だろう」
「違うな。魔導器があるから人々は手を取り合わないんだ。魔導器を多く持つ者が権力者であり、下々を支配する存在であるだなんて馬鹿らしい。その魔導器のせいで私の部下たちは死にかけたんだぞ? 魔導器が無くなれば人々は手を取り合わざるを得なくなる。そう思わないか?」
「……そうか」
デュークは私を見て考え込んでいる。
いいぜ考えろよ。存分に考えて、答えを出せよ。それが私の意に沿わないことならさらに言葉を重ねてそれを変えてやるよ。人は変わるんだ。良い意味でも悪い意味でも。
デュークは答えが出たのか、微かに口角を上げた。
「お前がそれを目指すのなら、私も協力しよう」
「……ようやく、か。知り合ってからようやく快い返事を貰えたな」
よっしゃ。デューク確保。私は心の中で呵呵大笑を繰り広げる。
手を差し出すと、デュークはそれに応えてくれた。
もう一つ良い手駒が増えたようだ。
さぁこれでちょっとは原作の展開をやりやすくなった。
もし私が言っていたような世界から魔導器を取り除くということになると、始祖の隷長はまず間違いなく死ぬ。聖核がいるし、原作の最後には精霊になってもらわないといけないからな。
始祖の隷長が役目を担わなくて済むようにという願いは叶うだろうが、それはデュークの思っているものじゃない。
それを説明してデュークは受けてくれるだろうか。……まず難しいだろうな。デュークはエルシフルという友人が大事だ。始祖の隷長の、長い時を役目に捧げたその生を尊重し敬愛している。もしかしたら、神に祈りを捧げるような念もあるかもしれない。デュークの考えてることは未だに分からないからただの想像でしかないが。
だが確実に言えるのは、デュークはきっと始祖の隷長の死を受け入れない。
世界のために、魔導器ために聖核がどうしても必要なんだ、精霊がどうしても必要なんだと言っても無理だ。その言葉を吐いた瞬間に決別は間違いない。
私はより良い世界のために、魔核を昇華させざるを得ない原作の道筋を作る。
そうなると私はデュークを……裏切らなければならない。
それに対して何も思うことはない。そうしなければならない。
原作ではアレクセイはそう行動した。そしてユーリたちのおかげで結果的にいい方向に進んだんだ。それでいいじゃないか。
私はデュークをお茶会に誘った。今日は良い菓子があるんだ。デュークが来た時に振舞おうと思って用意したものだ。それでも摘みながら未来のことを話そうじゃないか。……夢で覆われた未来の話だ。
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