ある日普通に起きたら子供になってた。
 何を言っているのか分からないがまぁつまりそういうことだった。
 ベッドの上から自分の家にはなかった大きな庭をぼんやりと眺めていると召使いが起こしに来て混乱し、何がどうなってるのか分からなかったがとりあえず従っておくかとなぁなぁで過ごしてたら自分がディノイアさん家のアレクセイ君だという事を知り頭を抱えた。
 どうしてこうなった。
 おかしい。自分という自我は普通に現代社会に生きるそこらへんにいるような会社員だったというのに。おかしいだろ。なんでだよ。あんなに頑張って就活してようやく勝ち取った会社生活。これで自分も社会人に仲間入り! となっていたというのに、意味が分からない。

 泣きそうになりながら日々を過ごし、私は決意した。
 アレクセイ・ディノイアに成り切ろう。
 正直腐った世界を是正してやるみたいな野心も無いし、この国をもっとより良い国にだなんて高い理想も無いが、まぁたぶん私はテイルズオブヴェスペリアでの『あの』アレクセイっぽいし、アレクセイがいなければ私が知っている原作は無くなってしまうんだろう。
 アレクセイがいなければそれはまた違う世界線になるんだろうけども……、それもなんか嫌だし。
 なんともまぁ曖昧で感情で物を決めたような決意をもって私は勉強をした。

 没落貴族という烙印を押されたディノイア家のアレクセイである自分、がんばります。
 没落貴族だが資産が押さえられたというよりも、ディノイア家の父が不用意な発言をしてギリギリと締め付けられているらしい現状。わたくし、ことアレクセイ(仮)は貴族としての教養を得つつ剣術、魔導器を中心に必死に勉強をした。
 自分はアレクセイ……アレクセイ……と暗示をかけつつ剣術に没頭してるとそれなりに強くなった。同じように暗示をかけつつ魔導器を弄っていたらまぁまぁ理解できた。
 大人だった時の物の覚え方と比べると子供の脳みそってすごい。どんどん吸収する。
 これはアレクセイの身体が元々地頭が良い方だからだろうか?
 するすると頭に入ってきて頭の中でいじくり回し理解した時の快感。大人に比べるとその速度が凄まじいのなんのって。
 勉強はあまり好きな方ではなかったが、この世界にインターネットも無いので勉強するしか楽しみが無かった私は本を読みまくってどんどんと知識を付けていった。
 
 そんな幼少時代を過ごし騎士団に入団。
 さぁーてここからアレクセイ無双をするんだ……と思っていたら下っ端の時だと不用意な発言もできなくて窮屈な思いをした。いや、上に行ったときはさらに窮屈な思いをするんだろうが、なんというか……まぁいいか。
 周りの人間たちはお貴族様ばかりだった。平民のへの字も無い。彼らは評議会と強い繋がりがあり、騎士団に入団するのは理想を持ってだなんてそんなことは無い。
 日々訓練をしつつも緩んだその顔に私は嫌だなぁと思った。
 若いから仕方が無いのか、とも思ったが結構な年齢の騎士たちも日和思考で権力至上主義。平民は貴族に従うべし。力に屈しよ権力にひれ伏せだった。なんだこれ。原作のアレクセイもこんな感じに「嫌だな」と思ったのかもしれない。
 私のような緩い感想ではなくて彼らを見て「このままではダメだより良い国に」と決心した可能性もある。
 ……なんだかその方がアレクセイっぽいな。私もそう思っておこう。
 
「このままではダメだ。この国はもっと良い国になるはずだ。上も下も無い、貴族も平民も無い、より平等に皆が笑い合える国に」

 うん。それっぽいな。私も決心しておこう。
 騎士団生活を過ごしていると未来のラスボスさんであるデュークさんがいた。
 デュークは原作でのあの浮世絵離れした人物とは少し違っていた。少ないながらも仲の良い同僚がいるようだ。原作での彼は完成された浮世絵離れだったのだろう。なんだよ完成された浮世絵離れって。自分で言ってて馬鹿らしい。
 私はデュークに話しかけた。
 彼は原作よりも表情らしい表情があった。
 まだ彼は人間に絶望をしていないのではないか?
 私は彼の心に少しでも残ったらいいなと思い、彼と交流した。
 デュークは言葉少ない青年だった。動物が好きらしく、よく騎士団の裏に迷い込む動物たちに囲まれていた。物静かに佇む彼は止まり木に丁度いいのだろう。彼の肩に鳥が留まっているのをよく見かけたし、猫が彼の脚にすり寄ってるのもいいなぁと思いつつ見ていた。

 彼の邪魔をするべきじゃないな、と動物たちと戯れる彼を見つけるたびにその場から離れていたがある日彼にお呼ばれした。
 よく動物たちに囲まれている場所に呼ばれた時は何事かと思ったが、じっとしていろという言葉のままじっとしていると動物たちが寄ってきてデュークと一緒にもみくちゃにされた。なにこれしあわせ。
 なんだなんだ、と呆然としているとデュークが私のことを見て微かに笑った。
 私はもしかしてデュークに認められたのだろうか。
 彼なりの親愛の証か? と戸惑っていると彼は私から目を離して動物たちと戯れ始めた。
 彼と会話らしい会話をすることもなくご相伴に預かりその日は過ぎた。

 それからの騎士団生活はまぁまぁ良好だった。
 私はアレクセイらしくアレクセイのように理想を掲げて言葉に出し、行動をしていたら周りにちょっと感化された人間が集まってきた。馬鹿にする人間ももちろんいたが、そんな奴らの言葉なんて知るか。
 私はちょっと感化された人間に飽きられないようにと頑張った。
 人間なんてすぐに簡単な方に流れていってしまう。自分の不利が分かれば「自分は関係ありません」という顔をする。だから私が一番前に出て、私の背中を見せて、その後ろに付いていくだけでいいんだと思わせなくてはならない。
 同士が現れればいいのだけど、それも簡単なものじゃない。
 評議会と繋がった貴族が多すぎるんだ。やべぇよ周り敵だらけだし。

 アレクセイらしく、アレクセイみたいに、と自分に言い聞かせつつデュークと一緒に動物たちに癒されつつ、騎士団の上を目指す。
 皇帝の名の下に行われた御前試合で見事優勝して、皇帝から名誉ある勲章と剣をいただき、私ことアレクセイ・ディノイアは名をあげた。デュークにボコボコにされかけたがなんとか勝てたぞ。というかアイツこんなものに参加する性格だったのか。意外だ。
 さて、ここからか。
 とんとん拍子に……とは言えないがなんとか騎士団長にまで上り詰めて私はさらに忙しくなった。
 忙しい中ヘルメスの存在を思い出した私は、あなたの研究に興味があるので友達にならない? という旨の手紙をヘルメスに送ったりして文通仲間になった。魔導器に首ったけで手紙なんて無視されるかと思ったけども、良い方向に予想を裏切ってくれた、やったね。
 さて次はデュークか。デュークは大貴族の出だからそこそこの地位にいる。私はデュークにいて欲しくて気にかけて言葉をかけまくった。ちょっと私の部下的な位置にはいらな〜い? いやいや部下じゃなくても肩を並べる同士的なものにぃ〜〜。
 見事フラれた。くそ……やっぱりラスボスは手強いな。

 このラスボス野郎。お前が人間に愛想尽かしてデインノモスなんか奪うから後々困ることになるんだぞ……と未来のデュークに心の中で毒を吐く。
 お前のことなんてもう知らないっ。
 デュークを適度に放置しつつ騎士団長権限で平民たちを騎士団に入団できるようになんとか頑張った。いや〜〜私は皇帝陛下のお気に入りだからさぁ〜〜前例の無いことも通っちゃうんだよねぇ〜〜〜! 評議会の馬鹿人間共の悔しがる顔を肴に酒が美味い。
 ヴァァ〜〜〜カ! と心の中で罵りつつ平民や貴族のごった煮部隊が出来上がりました。
 アレクセイの、いや私の理想を具現化した部隊。貴族も平民もない、ただ人として人のために働く人たち。

 キャナリが入隊してきた時は感慨深くなった。
 虚空の仮面を読了している身からしては彼女は本当に、私には無くてはならない存在だった。
 好奇心のまま話をしてみると彼女は志の高い、芯の強い女性だった。彼女に憧れる人も多い。いいぞ、彼女は広告塔にも役に立つ。ということで私はさっさと彼女を小隊長にした。
 彼女は私の期待にすぐさま応えてくれた。なにこの人、すごく有能……やだ……頼りになる……。

 ヘルメスにうきうきと手紙を書き、下町も彼女たちに任せればそこそこ安心だなと任せている中、私はまたデュークを誘った。フラれた。なんだよお前。
 デュークってどこらへんで人間に愛想付きて騎士団を抜けるんだっけ?
 というかお前、近くにいた方が守れるんだから傍にいろよな。
 大貴族である彼は評議会の人間も触るに触れない。少し特殊な立ち位置にいる彼が悪意に晒されないようにしないと、と思い誘っているというのにてめぇそろそろこっちに来いよ。
 必死になって口説いているとデュークは流石に機嫌を悪くしてしまった。
 くそ、最近動物と戯れる場に誘われないからこっちとしても大打撃だというのに。仕方ない、誘うのは諦めるかと溜息を吐いて時々でいいから動物たちと戯れさせて欲しいと頼み込むとその夜にデュークに誘われた。
 はぁ……評議会の人間との衝突でささくれだった心が癒される……。

 これからも疲れたときはデュークに頼むか〜、っと思っていたら皇帝が崩御した。マジかよ。
 うわやべぇ、皇帝のお気に入り権限が使えなくなるなやばいなと思っていると評議会の人間共が嫌な動きをし始めているのがなんとなく分かった。よくない傾向だ。
 これではダメだな。デューク、おまえマジで早くこっちに来いよ。

 評議会の連中に目を光らせていると、平民たちに大人気のキャナリ隊がいいものを拾ってきた。
 ダミュロン・アトマイス。
 キャナリが自信満々に薦めて来たのだが、そうか、いつの間にかもう和解したんだな。
 私は乗り気で早速ダミュロンと面談した。
 バツが悪いというか、物凄く居心地悪そうな彼を見て「これが未来のレイヴンか〜」と感慨深くなって笑った。

「頑張りなさい」
「は、はい……」

 適当に質疑応答して解放して彼はキャナリ隊に加わった。
 さてここからだ。ここから評議会をどうするか。
 人魔戦争は確か評議会のわがままでテムザにキャナリ隊を含めた騎士団の面々が赴き壊滅してしまう。
 駄目だ。それはダメだ。原作通りに行こうと思っていたけども、私にはもう彼らを手放せないほどの愛着を持っている。さぁて頑張りますか、とヘルメスを招待しまくる。今私が騎士団から離れたら評議会が何をするか分からない。
 ヘルメスほらっ来いよ、はやく来いやぁ! と手紙で圧をかけて、のらりくらりと躱すヤツを騎士団長命令で部下に招待(またの名は連行)させてようやくヘルメスと顔を突き合わせた。

 こんにちわ、からのヘルメス式魔導器の話で大盛り上がり。
 魔導器のことは正直好きでもなんでもないと思っていたが、私は思っていたよりも魔導器が好きだったようだ。ヘルメスからの印象も好印象っぽいし、私はアレクセイとして上手くやっているのではないか?
 これなら、原作のような悲しいことにはならないようにできるのではないか。
 私は自分の力を過信していた。
 そんなことを思っていたからダメだったのだろう。
 ヘルメスにヘルメス式魔導器の改良をすすめて、心臓魔導器の草案をもらってはいさようならをして、私は後悔した。

 結果を言うと、人魔戦争は起きた。
 アレクセイの部下たち諸共、原作通りに。

 ヘルメスと話をしたあと、何度か評議会との衝突を繰り返していた。
 私はおそらく、ヘルメスと対話をするのが遅すぎたのだ。
 よく考えてみればそうだ。ヘルメスは私よりも先に生きていて、魔導器に触れていたのだ。騎士団に入った辺りぐらいからヘルメスと知り合い、知己であればまた違ったのかもしれない。後悔しても遅い。
 評議会の人間たちが提案する言葉を呑み、私はキャナリ隊だけでも手元に置いておこうと彼女たちに残るようにと声を出そうとした。
 でも、と私は思った。

 原作通りに、動いた方がいいのでは?

 私は何を思ったのか、彼女たちをそのまま見送った。
 分かりきっていたのに。何が起こるかだなんて、分かっていた。
 人魔戦争は起きた。彼女たちは死んだ。
 私は船に乗ってテムザに向かい、ダミュロンともう一人の死体を拾った。
 ダミュロンの懐から心臓魔導器の設計図を取り出して、私は原作通りに彼らを蘇生することにした。
 だが他の死体でちゃんと試さないとな。この二人に死なれると困るんだ。私が困る。困る……。

 傍にデュークが立っていた。
 私は死体を抱えて彼を見上げる。
 彼は冷めた目をしていた。
 私の手にあるものが何か分かったのだろうか?

「アレクセイ。それは禁忌だ」
「……知っている」
「それに手を出すというのなら、私はお前を侮蔑するだろう」
「……それでもだ」
「…………そうか。それならもう、何も言うまい」

 そう言ってデュークは背を向けて歩き出した。
 私はその背に向けて声を出す。

「その始祖の隷長と共に逃げてくれ。評議会はその力を恐れて、……君たち諸共殺すだろうから」
「…………さらばだ」

 デュークはエルシフルと共にどこかに行ってしまった。
 私の言葉を聞き入れてくれたらいいんだけどもなぁ。
 私は騎士団の人間たちに命じて死体を回収した。表向きは弔うために、本当は彼らを使って実験をするために。

 そうして私は成功したんだ。
 アレクセイは、原作のアレクセイはどういう気持ちでこんなことをしたんだろうか。
 死体に一つ、心臓魔導器を取り付けて拒否反応で再度死なせて。何度も繰り返して成功したのは二人。
 私はそうして……彼らに二度目の生を押し付けた。


***


 幼いエステリーゼ姫が私に請う。
 本の中の騎士様と私は似ているらしい。
 私は彼女に一輪の花をあげた。幼子は喜んだ。
 未来の彼女に私は酷いことをするから、私はできるだけ彼女に優しくした。
 罪滅ぼしの前借りだ。意味の無いことだとは分かっている。
 彼女は喜んだ。人が喜ぶのは、いいことじゃないか。

 仕事に忙殺されていた。
 信頼できる同士たちが死んだ。
 原作通りに進んでよかったな。
 私はそれを望んでいたから、まぁ良かったのだろう。
 何が良かったのだろうか。馬鹿じゃないのか。

 デュークは騎士団を辞めた。
 原作と違ってエルシフルは死んでいないらしい。
 だが、評議会の馬鹿共がエルシフルを暗殺しようとした事実は有った。
 デュークは人間に愛想を尽かして騎士団を辞め、デインノモスを奪っていった。
 少し違うところはあるが、おおむね原作通り。
 原作通り、原作通り……。

 ダミュロンたちのことは後で考えよう。
 ダミュロン……いや、今はシュヴァーンか。
 もう一人の方は自身の名前を捨てるようなことはしなかったが、騎士団に名を連ねているというのが嫌らしく彼は戦死したことにした。騎士団の敷地内にある共同墓地に彼の名を刻み、だがそこにダミュロンの名は無い。
 もしかしたら名前だけでも彼らと一緒に葬ったほうが良かったのかもしれない。
 そう思い、そう思いつつも、私はそうすることができなかった。
 中途半端な人間だ。後で絶対に恨まれる。まぁいいか。恨まれるぐらいならいい。べつに、どうでもいいな。

 騎士団の人間がだいぶ削れてしまった。
 再建しないと。
 どこから手を付けようか。
 どうしようか。
 アレクセイはどうしたんだろうなぁ。
 アレクセイらしく、アレクセイのように、アレクセイが考えるような……。


***

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