何故かモブ(オリキャラと言った方がいい何か)とBLっちゃう男主。無駄に長く、極端に会話文が少ない。
 自分が読み直す前提で、設定を軽く詰め込んでるので読みにくいかもしれない。


 俺は生まれたときからそれを強く求めていた。
 生まれたとき、でもまだ遅い。生まれる前から俺は求めていた。
 幼少期に外の世界にいるというそれの話を聞いて心が躍った。俺はそれを食い殺すために生まれてきたんだとさえ思った。それのことを考えるとき、俺は確かに生きている実感を得ていた。
 恋よりも淡い、愛よりも深い、情欲よりも激しい、それへの執着。

 幼子の言葉を、大人たちが気味悪く思っているのは分かっていた。
 俺の異常さに気付いた母親は、俺の妄想を止めようと頑張ってくれた。
 けど俺はそれを捨て去ることができない。俺は母よりも、父よりも、弟よりも、それを、その行為を愛していた。
 愛している、と言う言葉では足りない。それは俺という物質の、性質の一部であり、それを切り離してしまえば俺は俺でなくなってしまう。

 俺は俺を愛していた。
 自分で在り続けることに、狂おしいまでに快感を得ていた。

 何を言っても妄想を吐くことをやめない俺に、とうとう両親は愛想を尽かした。
 弟はそれでも俺に構ってくれたが、弟までも妄想狂いにさせたくなかった両親は俺と弟を引き裂いた。一人になってしまって寂しかったが、俺は両親を恨むことはしなかった。しょうがない。これはしょうがないことだ。
 俺は自分でも狂っていると分かっていたから。狂っている俺だけども、弟には正常でいて欲しいと、人間らしいことを願っていた。


 そして俺は十二歳になり、訓練兵団に志願し入団する。

 
 両親は俺が訓練兵団に入団したことに安堵していた。
 あぁ、これで化け物が家からいなくなる。
 心の声が透けて見え、見送ってくれた家族に向かって俺はにっこりと笑い手を振った。
 玄関先に立ち、両親に肩を抱かれた弟が俺を見送るときに泣いてくれたことが、俺の唯一の救いだった。

 訓練兵団の寄宿舎での出来事はあまり覚えていない。
 とりあえず、寄宿舎の中では平和ボケした阿呆面共が怠惰に怠惰を尽くしていたことは覚えている。
 一応の訓練は受けて上位を目指してはいるが、上位を目指す理由は皆同じ。
 憲兵団か駐屯兵団志望のやつらばかり。
 その中で俺は調査兵団を希望していた。周りは俺を奇異の目で見る。

 俺と比較的会話をする一人の少年が、俺に言った。
 おい、やめとけよ、早死にしちまうぞ。
 俺はそれににっこり笑って言った。
 心配してくれてありがとう。けど俺はあれを殺しまくりたいんだ。調査兵団じゃないとあれを殺しまくれないから、俺はそこに入りたい。

 周りが俺を畏怖の目で見る。
 心が痛んだ。皆なんでそんな目で俺を見るんだ。
 周りが俺から離れていく。
 なんで皆俺から離れていくんだ。
 俺は確かにそれを殺したいんだ。誕生日には毎年毎年、神様からのプレゼントでそれを食い殺す夢だって見る。俺はそれを殺すことに、蹂躙することに興奮を覚えている。
 なんで皆そんなにそれに対して興味を示さないんだ。
 俺はそれを殺したい。けど、一人は嫌なんだ。
 それから俺は腫れ物扱いされるようになり、俺と仲が良かった連中も俺から離れていった。
 心が痛んだ。


 訓練兵団に入団して早三年。俺は無事卒業した。
 俺の最終成績は上位十位以内の中間、五位。
 まぁまぁだ。俺の希望はもちろん調査兵団で、上位十位以内では唯一の人間だった。
 俺はそのことに舌打ちし笑って悪態を吐く。腰抜け共め。平和ボケしてろ。


 調査兵団は万年人員不足だ。
 だから入団してまもなく、俺も壁外調査に駆り出された。
 壁外調査に行く当日、俺は鼻歌を歌いながら立体機動装置を取り付けるベルトを体に巻いていく。
 ベルトの具合を確かめては何度も頷き、鏡の前に立って髪を整える。気分は恋人とデートをする日のように浮き足立っている。
 あぁでも恋人という表現はあながち間違っていないのかもしれない。
 そう、恋人だ。俺の伴侶であり半身だ。俺は俺の半分を殺したくて仕方が無い。

 自室から出ると陰鬱な雰囲気が漂っていた。
 訓練兵団で上位十位からあぶれた人間が、ちらほらここにいる。
 気分がノリにノッていた俺は、青い顔をして震える一人の女性に声をかけた。

 ねぇ、怖いの? 大丈夫だよ、死にそうになったら俺が助けるからさ。
 女性は俺に向かって非難の声で叫んだ。
 何ソレ。そんな気休め聞きたくないわ。どっか行ってよ!

 俺は肩をすくめた。見た目からして大人しそうな子だとは思ったけど、中身は全然違っていたようだ。
 ヒステリックな女は嫌いだ。母親を思い出す。
 俺は笑って、そう、気に障るようなことを言ってごめんね、と謝ってその場から離れた。



 馬に乗り壁外に出ると、俺は外の世界の美しさに息を呑んだ。
 広がる平原は内地とあまり変わらないが、その空気に俺は歓喜した。
 あぁここだここだ。俺が求めていた場所はここなんだ。俺は今から恋人に会いに行く。この広がる大地の上で、我が物顔で闊歩するそれに会いに行く。
 けはは。知らず知らずのうちに笑いがもれた。

 それに初めて出会って、俺は嬉しくて泣いた。
 やっと会えたと泣き、笑ってそれを屠った。血が飛び散る。
 人間と同じ形をしたそれ。だが人間よりも巨大なそれ。

 巨人。

 立体機動装置を駆使し、俺は巨人を屠る。
 平地での使用は、文字通り骨が折れた。
 わは、わははは。骨が折れた、折れた、わははは。あぁ、愛してるよ。
 殺した。二匹しか殺せなかった。
 俺の独断行動を許さなかった調査兵団は、急遽俺を取り押さえ、俺は壁内に戻された。
 ひゃひはは。痛い、痛いなぁ。腕が折れた。あぁ強い。俺の半身は強かった。俺は弱かった。これじゃあ殺せないな。これじゃあ食い殺せないな。足りないな、力が。もっと欲しい。恋人を蹂躙する力が欲しいなぁ。
 うふははは。俺は笑った。恋人が俺に逆らったことに興奮していた。
 痛みにさいなまれて寝た夜、興奮のあまり寝小便を垂らしてしまったことには、さすがに自分の馬鹿さ加減に落ち込んだ。



 数日後。結局何の成果も得られずに戻ってきた調査兵団達。
 俺は三角布に腕を通した格好で、その凱旋を眺めていた。
 皆、壁外に行くときよりも陰鬱な顔をしていた。
 俺は捜す。訓練兵団で見かけた顔を捜す。壁外に出る前に声をかけた女性を捜す。
 けどいくら捜しても見つからなかった。
 俺はそれを悲しく思った。あの女性はどういう顔で死んでいったのだろうか。綺麗な顔をしていた。兵団の中にいることが惜しいぐらいに整っていた。その顔に恐怖を刻み込んで死んでいったのだろうか。
 それは可哀想だと思った。俺は目を伏せて、死んでいった彼らに憐憫の念を込めて黙祷した。



 独断行動の処罰は謹慎だけだった。
 なんだそれは。生ぬるすぎて乾いた笑いが出た。
 俺の処罰を伝えに来た男によると、平地での俺の動きを評価してくれたらしい。
 平地であそこまで動けるのはすごいだとか。へー、そう。興味ないや。
 男は化け物を見るような目で苦笑して、立ち去っていった。
 そう、謹慎。謹慎。謹慎って何をしたらいいんだろうか。与えられた部屋にこもっていたらいいんだろうか。それは暇だ。遊びに行こう。

 そう思い至って俺は街に繰り出す。
 久しぶりに弟に会いたいと思った。
 人間は皆俺を化け物を見る目で見る。けど弟は違ったから。俺は心に無数につけられた傷を癒したくて実家に向けて歩いた。
 そして見つける。数年間会っていなかっただけで弟は大分成長していた。
 俺を見つけた弟は俺に無邪気な笑顔を向けてくれた。

 俺を差別しないその笑顔に、俺の中で衝動が生まれる。俺は無我夢中で弟を路地裏に引きずり込み壁に押し付け、その口に噛み付くようなキスをした。
 弟は暴れたが、一般人である弟と兵士である俺とでは力量が違う。
 口内を貪り、弟の抵抗によって傷つけられた俺の舌から血が垂れ、それでも貪り続ければ弟は次第に抵抗をしなくなった。
 目を見開いて弟の顔を見る。その顔は恐怖に歪んでいた。
 その顔を見た瞬間、血の気が引いた。

 俺は慌てて弟を解放する。
 弟は壁に背を預けて、ずるずると座り込んだ。
 口元を血で染め上げながら、恐怖の目で俺を見る。
 なんてことをしてしまったんだ俺は。
 俺は怖くなって逃げた。
 部屋に戻って毛布を頭からかぶる。下半身で猛るソレに気付いた俺は、ベッドの上で泣いた。



 謹慎が解け、俺はまた壁外に行くことになった。
 今度は命令違反をすることなく従順に任務をこなしていく。
 巨人から逃げるということに苦痛を感じたが、それもなんとか耐える。
 壁外の調査が終わって、いつもどおりなんの成果も得られずに戻ってきた俺たちを、街の人間が盛大に出迎える。
 調査兵団が通る道を囲むようにして並ぶ人間達。
 俺は馬上からその人間達を見回した。一人ひとりの顔を見て、俺は捜す。
 何人、何十人の顔を見て、俺は気付いた。俺は一体誰を捜しているのだろうか。
 馬鹿馬鹿しくなった俺は誰かを捜すのをやめた。



 それから数年後。壁内に戻って、自分に当てられた部屋から抜け出した俺は、街を取り囲む壁の前まで来ていた。
 壁に耳を押し当てる。この壁の向こうに、俺の愛する巨人達がいる。
 そのことに心の内が満たされていく。安堵に顔を緩めて、俺は座り込んだ。
 今日は天気が良い。過ごしやすい気温で、草の匂いを含んだ気持ちの良い風が俺を撫ぜる。
 耳から伝わる安心と風の気持ちよさに、俺はゆっくりと目を閉じた。
 何十分か、何時間か同じ体勢で座り込んでいると、近くに人の気配がして俺は薄く目を開ける。
 そこには見たことのある男が立っていた。

「そこで何をしている」

 男が問いかけてきたので、俺は答えた。

「安心してる」

 俺の答えに男が眉をしかめた。
 達観したような無表情の上に、目つきの悪い目から放たれる鋭い視線。
 数秒その顔を眺めて、俺はそれが誰か気付いた。
 何度も壁外調査に行き、その度に生き残って帰ってくる、巨人討伐数過多のリヴァイだ。
 さて、そんな男が俺に話しかけている。どうしようかな。
 リヴァイは仁王立ちで腕を組み、俺を眺めてさらに眉をしかめた。

「そんなとこに座ってたら汚れるぞ」
「あぁそうだね。確かにそうだ」
「……立たねぇのか」
「うん。もう少し、こうしていたいからな」
「………………お前は」

 言葉を切る。
 不自然に切られた声に不思議に思った俺は、ぼんやりと開けていた目をちゃんと開いた。
 リヴァイは、無表情で俺を見ていた。
 その顔には俺に対しての侮蔑も畏怖も無い。
 ただの物を見るような目で俺を見ていた。
 俺はそのことにちょっと嬉しく思い、少し悲しく思った。
 そしてリヴァイが口を開く。

「巨人が怖いか」

 その問いに、俺は首を傾げた。
 何を言っているんだろうか。怖くない。むしろ俺は巨人を愛している。
 愛しているから、殺したい。
 俺は口を開いた。

「愛している」

 そう、俺は愛しているんだ。俺の一部。俺の半身。

「俺は生まれたときから、生まれる前から巨人を愛していた。巨人を殺すことを夢に見ていた。巨人を食い殺すことに喜びを感じていた。なぜ怖いだなんて思う? あれは、俺だ。俺の恋人で俺の伴侶で俺の半身だ。俺は巨人を殺したい。夢の中で何度も食べた。なぜ怖いだなんて思う? なぜそんな質問をする? 俺は化け物じゃないぞ。お前らが弱いだけなんだ。俺は強くなるから皆俺の後ろに隠れればいい。そうしたら巨人は全部俺の物だ。俺は化け物じゃない。弱いお前らはすぐ死んじゃうから俺の後ろにいればいい。俺は巨人を愛しているんだ。殺したい。俺は巨人を殺し尽くしたい。愛しているから、殺したい」

 言葉が落ちていく。
 俺の言葉にリヴァイは少し目を見開く。
 そして、そうか、と一言呟く。
 なにがそうか、なのだろう。

「俺が思うに、お前は化け物だ」

 あぁもう。こいつもそうか。俺は失望した。
 無表情に俺を見るこの男の目には、俺への侮蔑がなかった。
 だから期待してしまった。
 これだから人間は嫌なんだよ。

「お前はお前に囚われているんだろうな。理性のある化け物ほど、怖いものは無い」
「……お前は俺が怖いか?」
「いいや」
「でも俺化け物なんだろう? 怖いだろ?」
「お前は化け物だが、人間だ」
「何それ。君が何言ってるのか分からない」
「……そうだな。俺もよく分からん」
「えぇー……何それぇ……」

 呆れる。と、同時に笑いがもれた。
 満たされた心の中に一滴、なにかが注された。

「ただ、そうだな……。お前みたいなのがいると、これからの調査も楽になるだろうな」
「おう。期待してくれよ。俺いっぱい巨人殺すからさ。君なんて追い抜くよ俺」
「そうか。悪くない」

 わははは、なんだこれ。
 人間が俺と会話してるよ。なんだこいつ。すごい良い奴だな。結婚してぇ。俺は衝動のまま口を動かした。

「これから俺とずっと一緒にいてください」
「……なんだその気色悪い言葉は」
「さびしいから、巨人を殺すのは楽しいけど一人はさびしい。これからずっと傍にいてください」
「断る」
「あぁ酷い」
「……生き残れば、必然的に俺の傍にいられるだろうな」
「デレたぞコイツ。まさかのツンからのデレ。君無表情で怖いけど意外とかわいいな」
「死ね」

 リヴァイの靴底が俺の顔面に吸い込まれた。
 人を傷つけることに躊躇しないその蹴りは、あまりにも重く、俺は後ろに倒れ込む。
 鼻が陥没したかもしれない。

「わは、わははは、痛い、痛いな。酷いなリヴァイは」
「うるせぇ。気安く俺の名前を呼ぶんじゃねぇよ化け物が」
「俺化け物って言われるの嫌なんだ。そのあだ名はやめてくれよ」
「ならその気色の悪い口を早々に閉じるんだな」
「あぁごめんごめん。俺リヴァイのこと好きだわ」
「死ね」

 二回目の蹴りは鳩尾にめり込んだ。俺はたまらず悶絶する。
 痛い痛い痛い。けど、心が痛むよりも随分痛くない。
 俺は笑った。貼り付けた笑いじゃなくて、自然に出た笑いを浮かべて、リヴァイに大層気味悪がられた。
 俺はその視線を意に介さず、よろめきながらも立ち上がる。
 そしてリヴァイの全身を視界に納めて、その体が俺よりも随分と小さいことに爆笑した。
 そうして本日三度目の蹴りが俺の股間にめり込んだ。

 あまりの痛みに意識を失いかける俺は、色んな感情が混ざってぐちゃぐちゃになった心の中をさらにかき混ぜられ、追加で痛みを加えられた、よく分からない何かに涙しながら、気を失った。

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