エステリーゼ様の髪は美しい。私は彼女の髪から香るほのかで甘い香りを吸い込み目を細めて彼女のつむじを眺める。少女とも女とも言えない境目を行き来する今年で十五歳になる彼女はゾッとする程美しかった。つつつと目を動かすと染めていない鮮やかな桃色髪は彼女の細身の身体に沿うように流れ、さながら淀みなく流れる美しい大河のようだ。手で掬えば冷たい糸髪がこの手からサラサラとこぼれ落ちていくだろうことは容易に想像できる。彼女が今椅子から立ち上がり部屋を歩く様を夢想する。彼女の腰まである髪の毛は歩くたびに重力を伴ってサラサラと揺れ私を誘う。その後ろ姿を見るたびに手が伸びて髪を引っ張り彼女の首に刃がズブリと食い込む妄想が駆け巡った。悲鳴を上げる間もなく息絶えたエステリーゼ様の生首をぶら下げて悦に浸る私は彼女のための彼女だけのために購入した鈍い光沢のある赤漆喰の棚に彼女の首を置いて毎日一万回彼女のその美しい髪の毛を滅多に出回らない知る人ぞ知る特注品の椿櫛で梳くのだ。そんな妄想をしながら本を片手にエステリーゼ様に勉強を教える私に、エステリーゼ様が手を止めてこちらを見上げた。無垢な緑の瞳は私をじっと見つめて、どうしようか悩むように口を開いたり閉じたりを繰り返す。私はいつも通りに温和に微笑んで「どうかしましたか?」と尋ねた。
「あの、とてもお恥ずかしいことをお聞きしたいのですが……」
「何か分からないところがございましたか?」
「いえ、違うんです。えぇと、勉学のことでは無くて、その……」
頬を染めて困ったように俯くエステリーゼ様に手が震えた。このまま先生が生徒を慰めるように頭を撫でるといった行為をしてもいいのではないか。心臓がじりじりと興奮に鼓動を刻み、知らず小さく唾を飲み込む。私は何気なく手を上げて、彼女が同じタイミングで顔を上げた。
「あの、男の人の自慰ってどうやってするのですか?」
「…………は?」
何を言われたのか、分からなかった。
私はもう一度「……は?」と間の抜けた声を出して、エステリーゼ様はそんな私に焦るように言葉を続けた。
「ですから、男の人の自慰です」
「……エステリーゼ様、淑女がそんなはしたない言葉を」
「あの、私実は男なのかもしれないんです。いえ、男でもあるんです」
「……おと、……はぁ!?」
エステリーゼ様の口から発せられた言葉に頭が追いつけず混乱に顔が強張った。何かの悪い冗談かと思ったがエステリーゼ様の目は真剣で、それに元々彼女がそんな嘘を吐く性質ではないとまったく理解している私には彼女が冗談や嘘を言っているように思えなかった。口元をひくつかせ、私はなんとか落ち着こうと咳払いをした。
「……とりあえず、どういうことか説明してください」
「はい。本当はお母様と乳母しか知らないことなのですが……その、私、男性器がついているんです……」
「なるほど……」
今の言葉を丸呑みするように深々と頷く。まったくもって意味が分からない。彼女の口から男性器という言葉が出てくることすら信じがたい。何かの悪い夢だ。冗談だ。私は悪い夢を見ているのだ。きっと本当の私は未だベッドの上で、酷い悪夢にうなされているのだろう。ゆっくりと開いていた教科書を閉じて、彼女の真剣な目から顔をそらす。
「なるほど」
何がなるほどなのだろう。何も理解できていない私は現実逃避するように天井を仰いだ。私の袖をエステリーゼ様が引き、見下ろすと彼女(本当に彼女なのか?)は眉を下げて泣きそうにしている。
「それで、あの……」
「……はい」
「あの、それで、何故私が今この時に言ったのか、なのですが……」
「はい、何故ですか」
「う、うぅ……」
エステリーゼ様は恥ずかしそうに足を動かした。内股を擦り合わすその動作に思わず彼女の下半身に目が行く。そうして悟った。彼女の服を押し上げる何かに、私は何が起こっているのか容易く推測してしまった。彼女は何故か勃起していたのだ。私は再び天井を仰ぎ、「あぁ神様、私は髪の美しい女性を望んでいたのです」と涙が頬を伝っていった。
ふたなりエステルと巷で噂の髪の長い女性を狙った連続殺人鬼な男主。
(このエステルの髪の毛は腰まである設定です。そしてふたなり)
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