白い子を撫でていると、次第にしんどくなって頭に手を置いたまま止まる。
部屋の中は静かだ。ゆっくりと障子に目を向ける。眠る前は気付かなかったが、その障子の和紙は多く破れていた。古い血が点々と飛び、静かなことと相まって凄惨な雰囲気を醸している。
ふぅ、と白い子の息を吐く音がした。もう一度目を向けると、白い子は目を閉じていた。寝ているかは分からない。腕の中の白い猫もぐったりとしていて、本当に死んでいるみたいだ。
血の臭いがする。不愉快だな。
しばらくぼんやりと障子を見ていると、きしきしと床の軋む音が聴こえた。膝で白い子がびくりと震えるのが分かった。空気がざわつく。部屋を見ると、壁に背を預けて顔を俯けていた男が顔を上げている。床に転がっていた男が床を這い、障子を睨んでいる。
腹に冷たいものが触れた。白い子が私の腹に顔を押し付け、腕の中の猫が弱々しく鳴いた。
障子の前に人が立ち、すらりとしたシルエットだけが見えた。
「……みんな、ご飯を持ってきたよ」
柔らかな男の声に、部屋の中の人間達が一様に安堵の息を吐いた。不穏な空気は霧散し、その気配を察知したのか、障子の向こうの男が戸を開いた。
部屋に入って来たのは黒に身を包んだ、眼帯をつけた男だった。その男も身体に少なからず包帯を巻き、手には多くの椀が乗った盆を持っていた。
張り付いた柔和な笑顔を携えて部屋に入り、部屋の中の人間達がのそのそと動き出す。
言葉は無かった。眼帯の男は無言で椀を差し出し、部屋の住人は無言でそれを受け取る。
時計回りに椀を配り、やがて私のところにも男が来る。私の前に膝を折り、張り付けた笑顔で椀を差し出してくる。私はそれを億劫そうに受け取り、それを見ていた眼帯の男の目がゆっくりと見開いた。片方だけの鮮やかな――は、驚いたようにして、そしてまた笑った。
「……うん。しょうが、ないよね……」
諦めきった声。眼帯の男は、私の腹にまだ顔を埋める白い子の分も私に差し出した。
それを受け取り、男はどこかに行く。
……椀の中身を見ると、温められた白湯ほど透明な汁に、申し訳程度に根菜が浮いているだけだった。