厨房の横には食料庫があり、そこに運び入れていく。右手の壁には業務用の冷蔵庫が並び、左手には厨房への引き戸とその両脇に底の深い木箱が並ぶ。正面には天井まで届く棚が設置されてはいるが、何も置かれていない。
ほぼ空の状態の食料庫の床にダンボールを下ろし、燭台切は忙しく外に出て行った。
私も彼に習い米俵を床に置く。何回かそれを繰り返し、門の前の物を全て運び終える。見た目の量の多さに比べたら、随分と早く終わったものだ。
燭台切は彼よりも大きな一枚扉の冷蔵庫を開けて、中の肉を確認している。包みをめくり、なんの肉か見極めているようだ。
「たぶん、豚かな。どこの部位だろ。蜻蛉切くん分かる?」
問いかけに首を横に振る。燭台切は「だよね」と苦笑した。
「せめてなんの肉かぐらいは書いてて欲しかったよ。焼いたらさすがに分かるだろうけど、赤身の状態じゃなぁ」
何個か調べて、魚以外は分からずに冷蔵庫の扉を閉める。
ダンボールの前に屈み、中身が分かるように蓋だけ開けていく。私も向かいに座り手伝う。燭台切は首をひねった。
「こう食材が多いと困るね。何を作ろうかな……。食べたいの、ある?」
燭台切の灯籠の火のような目がこちらを向く。私は彼の目の色に驚いた。今初めて認識した色に、思わず見入る。燭台切は私の反応に慌てて、「ご、ごめん。馴れ馴れしすぎたかな?」と謝罪を差し込んだ。
「えぇと、君も僕のことを良く思っていなかったのかな。話したこと無かったから知らなくて。もしかして、門の前にいたのは遠征部隊を迎えに行っていたから? い、いや、ごめん、詮索するつもりじゃなくって、……ごめん」
誤魔化すように矢継ぎ早にしゃべる燭台切に面食らう。どうして謝られているのか分からず、首を傾げる。気まずそうに顔をそらした燭台切は「手伝ってくれて、ありがとう」と、か細く言ってダンボールを持ち上げ、厨房への引き戸を開けて行ってしまった。
一人取り残され、物音を立てる者が無くなった食料庫は静かになった。
燭台切の言葉を思い返す。あの口ぶりからすると、彼はあまり好かれていないようだ。『君も』だなんて、なんて悲しい言葉なんだろうか。
ぼんやりと閉じられた引き戸を眺めて、のっそりと立ち上がる。
なんの考えもないまま厨房に足を進めた。