音の出所を探すと、寂れた門の前に着いた。
門の前には先ほどまで無かった物が出現していた。白いダンボールが腰の高さまで乱雑に積まれ、その横には一つが一抱えほどある米俵が十ほど。
物資だろうか。中身が気になるが、私が勝手に開けていいものかとその場に佇む。
小走りにこちらに近づいてくる足音に振り向く。眼帯の男だ。
「え? うそ、なんで?」
横に並んだ彼は白いダンボールを目の前に困惑していた。うろうろと目がさまよい、時折こちらに向けられる目が何かを訴えてくる。彼は白いダンボールに歩み寄り、おそるおそる開いた。
「……食料だ」
箱の中には野菜がぎっしりと詰まっていた。
呆然と呟やく男の肩越しに野菜を確認し、むきだしのまま入れられた野菜の一つを手に取る。にんじんだ。市販で売られているものと変わらない、新鮮なもの。
眼帯の男は他のも開いていき、その全てが食料であることに戸惑う。
「なんだろう、きまぐれかな……?」
ダンボールで見えなかったが、うしろにはぶつ切りにされた大ぶりの肉が積まれていた。乾燥から守るための紙に包まれ、それらは結構な量がある。
私と彼は同じタイミングで顔を見合わせた。
「これ、多分主くんが注文したものだよ。前に同じ箱を見たことがある。……けど、なんで食料を注文したんだろう……。あの人は僕たちのことなんてどうでもいいだろうに……」
さびしそうに肩を落とし、うっすらと笑む男。
あるじくんとは、誰のことだろうか。ここには私が確認した者以外にもいるらしい。なんとはなしに辺りを見回し、どこにも人影が無いことを確かめる。
あるじくんとやらはここにはいないのか。
注文をしたというからには、外から業者が来たのだろう。
感傷にふける男を置いて門に歩み寄る。門にはかんぬきを掛けられるでっぱりがあり、他の装飾は見当たらない。押して開門をするのだろうか。
把手などは無いものかと探すと、壁に立てかけられた木製のかんぬきを見つける。黒と赤の文様で隅まで埋め尽くされたそれは異様だ。眺めていると、眼帯の男がこの身体の名前を呼んだ。
「蜻蛉切くん、運ぶのを手伝って欲しい。遠征組がそろそろ帰ってくるだろうし、ここを塞いでると彼らが通れなくなる」
食料の前に戻り、私は米俵を二つ担いだ。重いが、思っていたほどではない。
燭台切は米俵二つを軽々と持つ私に呆気に取られ、「力持ちだねぇ!」とへにゃりと笑う。負けていられないとばかりに野菜の詰まった横幅のある箱を三つ持ち上げ、少しふらつきつつも座敷にへと進んだ。
その後ろ姿を見て、「あぁ」とかすれた声を出す。
そうだ、彼の名前は燭台切光忠だ。