鬱とん、審神者を殺す | ナノ


知ること  


 あの言葉を最後に、声の主は沈黙した。襖の向こうから物音一つせず、忽然と消えてしまったような、あるいは元から何もいなかったとでも言うような静けさだった。

 眼帯の男に抑えられていた同田貫は気絶していた。興奮のしすぎと、怪我を負っているのに無理をしたからだろう。眼帯の男は長い息を吐いた。未だ強く握りしめる同田貫の手の刀を取り上げて鞘に収める。立ち上がって同田貫の身体を持ち上げようとするが、危なげにふらついた。

 襖の方に倒れ込もうとしている肩を支え、眼帯の男は私を見上げた。不思議そうに首を傾げて、ぎこちなく笑う。

「……ありがとう」

 起きていても気絶していても、引きずることには変わりない。私は同田貫の傍に屈み、くったりとした腕を肩に回して立ち上がった。腰の布を掴んで引き上げ、思っていたより軽い身体に奇妙さを感じた。

 なんだろう、これは。筋肉が少ない? いや、見る分にはそんなに肉付きが悪いようには見えなかった。人の重さといった感じがしない。
 何故か、と考えて私の身体は前の物では無いと思い至る。前よりも高い身長、鍛えられた身体。そのせいだと思い、だが頭の片隅でまだ疑問が居座っていた。

 まぁ、いい。
 同田貫をあの部屋まで運ぼう。
 歩き出すと、同田貫を挟んで眼帯の男が横に並んだ。手にはいつの間にやら、ぐちゃぐちゃになった膳がある。

 日が高いのに鳥の鳴き声すらしない、寒々しい中庭を横断する。無言で歩を進め、座敷の縁側に上がり、部屋を目指す。来る途中に角を色々と曲がったが、基本的に一本道だったので迷うことはないだろう。

「……前まで、あんな風じゃなかったのにね」

 呟かれた言葉。それは私に同意を求めているものだ。私はあの襖の向こうの存在のことを知らない。反応せずにいると、眼帯の男は独り言を吐き始めた。

「長谷部くんや、倶利ちゃんを鍛刀してくれないかなぁ……」
「粟田口の皆のために、一期くんでもいいかな」
「まぁ、同田貫くんが言うように、また折れるだけなんだろうけど」
「何振目だろう」
「僕自身も何振目か分からないんだけどね」
「僕が認識してる範囲だけど、一期くんは三振目だったっけ。長谷部くんは多かった気がするなぁ」
「ご飯、どうしようかな。食材がもうほとんどないんだよね」
「……蜻蛉切くん」

 眼帯の男を見る。――色の目が遠くを眩しそうに見ていた。

「僕ももうそろそろ折れていいかなぁ……?」

 私に聞いているわけではない言葉。この男はもうすぐ折れるのだろう。

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