おかあさまが、たおれました。
 私の部屋に入ってきた侍女に、そう聞かされました。
 私はいてもたってもいられなくて、部屋を飛び出します。
 おかあさまとの約束をやぶってしまいましたが、それに胸を痛めつつも私は走りました。
 ごめんなさい。約束をやぶって、ごめんなさい。

 おかあさまの部屋のとびらの前に来て、とってに手を伸ばします。
 ですが、私は背が低かったのでそのとってに手が届きませんでした。
 背伸びしても、届きませんでした。
 なみだで目の前がにじみます。悔しくて、悲しくて、ずず、とはしたなく鼻をすすって、私はせいいっぱいとってに手を伸ばします。
 おかあさま、おかあさま、おかあさま!

 がちゃり、

 私の頭の上から伸びた大きな手が、とってを回しました。
 少し開いた扉を押して、私は部屋の中に入ります。
 おかあさまは部屋の真ん中に置かれた寝台にいました。
 私はそこに向かって走ります。

「おかあさま!」
「エステリーゼ……」

 おかあさまはおどろいていました。
 おかあさまにかぶさった白いシーツをくしゃりとつかんで、私はおかあさまの顔を見ます。
 とても疲れた顔で、それでもほほえんでいるその顔を見て、私は泣いてしまいました。

 あぁ、あぁ、なんで、……なんで、

 ……私は、本当は、知っていたんです。
 おかあさまの体が悪いことを。
 おかあさまがそれを必死でかくそうとしていることを。
 私は、知っていたんです。

 悲しくて、心の中がぐちゃぐちゃで、私は絵本達に八つ当たりをしてしまいました。
 夢を見させてくれる絵本達は私を助けてくれないから、とても憎く思えてしまって、そう思ってしまった自分が嫌で、おかあさまがいなくなってしまうかもしれないことが、怖くて、怖くて……。
 泣いて、お行儀悪くして、怖くて、怖くて、……嫌で。

 私にかくしていたことを、私にかくせなくなるほど、おかあさまの体は悪くなってしまった。
 私は泣きました。泣いて、泣いて、おかあさまを困らせました。
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