その人はいつも笑っていました。


 きらきらと光る金色の髪と、空とおんなじきれいな色のひとみを持った男の人でした。初めてその人を見たとき、私はその人の頭に金色の稲穂が生えていると思いました。
 絵本で見た、平民の人たちが育てているという植物は、みんなで集まって、風に吹かれていつも楽しくおどっているらしいのです。
 風さんとお友達の稲穂さんは、歩かないと思っていたのですけど、目の前の男の人は私のところに歩いてきます。

 私は自分の部屋の真ん中で、お行儀悪く床に座り込んでいました。
 私の周りには絵本がいっぱい散らばっています。私が、散らかしたのです。
 いやなことがあって、私はつみのない絵本達に、私に夢を見させてくれる彼らに八つ当たりをしたのです。
 私はなんて、おんしらず、なんでしょうか。

 その人は笑って私の前で膝を折り、私とおんなじ目線になりました。
 知らない人だったのですが、私はその人の髪の毛がゆれるのをぽかんと見ていたのです。
 さらさらと流れる金色は、男の人のほっぺたを楽しそうに泳いでいます。
 こんなきれいな色、見たことがなかった私はそれに触れてみたいと思いました。
 手を伸ばせば、触れられるんでしょうか。

 私は手を伸ばしました。

 男の人は空色をおどろかせて、そしてまた笑ってくれました。
 私はそれが嬉しくて、さっきまで泣いていたのを忘れて笑ったのです。


 その人はいつも笑っていました。
 たのしいことがある、と言った顔でいつもほほえんでいました。
 私も一緒に笑ったら、その人がとても嬉しそうな顔をするので、私はその人のことが好きでした。
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