15
 泣いてる私を抱き上げて男の人はやしきに向かいました。
 男の人のやしきは植物がいっぱいからまっている、レンガ造りのかわいいやしきでした。
 まるで絵本に出てきそうな、とてもあたたかい色のたてものです。えんとつもついていて、男の人はそこから「さんた」が入ってくるんだよと教えてくれました。
 「さんた」とは一体なんでしょう? 分からずにたずねてみると、男の人は「年に一度、良い子に素敵なプレゼントをしてくれるおじいさんのことだよ」と言いました。
 とてもステキなおじいさんです。私はプレゼントがほしかったので、良い子にしていようと思いました。

 やしきの中に入ると、そこもとてもステキな場所でした。外から見たとおり、あたたかな色にいろどられたおやしきで、私はきょろきょろと見回しました。

「俺の屋敷にようこそ、エステリーゼ。歓迎するよ」
「え? あれ? こえ、が……」

 間近で聞こえる、耳を打つ音に驚いて男の人を見ると、彼はいたずらがせいこうしたことに喜ぶ悪い顔をしていました。

「ここは俺の屋敷だからね。ここだったら俺は俺でいられる」
「じぶんで、いられるのですか?」
「そう、そうだよ。俺はここでしか生きていけないから」
「でも、さっきまでわたしのへやにも……」
「長くはいられない。俺は君に会いたくて、命を削って会いにいった」
「いのちを……!」

 なんて、なんてことを!
 口元を手でおおって驚く私を、男の人はいつもと変わらない笑顔で私のおでこにキスを落としました。

「大丈夫。これからは君がここにいてくれる」

 そのまま床におろされて、私は不安に男の人を見上げました。
 男の人は私を見ていませんでした。私はそのことにちょっとしたショックを受けました。私が彼を見た時いつだって目が合っていたのに、今は彼の横顔を見ています。
 男の人は私の手を引いて歩き出しました。

「エステリーゼ、君の歓迎会をしよう」
「かんげいかい、ですか?」
「そう、そうだよ。君がここまで来てくれたお祝いを。君の勇気に乾杯をしよう」
「かんぱい?」
「グラスとグラスを合わせて喜びを分かち合う、といったところだろうか。うーん、歓迎会よりもお茶会、と言った方が君には分かりやすいかな」
「おちゃかい」
「そう、君も好きだろう。君の好きそうな紅茶もお菓子もちゃんと用意しているよ」
「……はい、うれしいです」

 なんだか、ちょっとこわいです。なんだか人が変わってしまったような……、そんな気がします。
 私の知っている男の人は、あまりしゃべらない人でした。いつもそばにいてくれて、いつも優しく微笑んでいて、私を優しく見守ってくれている、そんな人でした。
 でも今は……。私は不安になって顔を上に向けました。
 男の人の横顔を見上げて、私はその楽しそうな顔にさきほどの気持ちを恥じました。

 なんてひどいことを思ったのでしょうか。
 男の人は嬉しくて、その気持ちを別の言葉にしているだけでした。
 私はさきほどの気持ちを胸にしまいこんで、ぎゅっとふたをしめました。
 ながくながく歩いて、男の人が「この扉の先が中庭だよ」という言葉とともに、大きな両開きのとびらを開けました。
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