男の人が私の部屋にあそびに来てくれました。
おもわず男の人のお腹に抱きついた私に、男の人はびっくりしていました。
泣きそうになるのをがんばってガマンして、私は言いました。
「まってました。このまえのお話、お請けします」
見上げた空色がさらにびっくりしました。
そして男の人は今までの笑みよりもずっとキレイに、ずっと悲しく笑いました。
私はその顔を見て何かやってはいけないことをしてしまったのかと不安になりました。
男の人は優しくふんわり言いました。
――不安にさせてしまったみたいだね、エステリーゼ。ごめんね
「いえ、だいじょうぶです」
――泣いていたのかな。涙の跡があるよ
「ないてなんかいません」
――そうか。遅くなったのは屋敷の掃除をしていたからなんだ。ごめんね、エステリーゼ
「……ゆるさないです」
私の言葉に男の人が楽しそうに笑いました。
久しぶりに見たきらきらとした笑顔に、私はうれしくてしかたがありません。
もっと見たくて、私は怒った顔で男の人のお腹を叩きました。
男の人は私の手をはずして、私を前から抱きしめました。ひんやりと冷たくて、気持ちがいいです。肩に顔をぐりぐりすると男の人がくすぐったそうにします。私はそれが楽しくて、ぼんやりとしあわせにひたりました。そして私は私の気持ちにやっと気付いたのです。
私は本当に、本当に、この男の人のことが好きなのだと気付きました。
男の人が私から離れます。私はそれがとてもさびしかったのですが、男の人は手をつないでくれました。
絵本の中の王子さまがお姫さまにやっていたように、目の前でひざをついて、私の手をとって、きれいな空色が私を見ていました。
私はなんだかはずかしくなって下を向きました。
――迎えに来たよ、エステリーゼ。俺と一緒に暮らそう
絵本の中のお姫さまなら、すぐに言葉をかえしたでしょう。
ですが、私は好きな人にそう言われて何も言えませんでした。少しだけうなづいて、私の手の甲に男の人が口付けるのを見ていました。
その日は抜けるような青空が祝福する日でした。