2020/06/14

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 奇妙な組み合わせの年若い人間たちと旅を共にすることにした私は、何故かその中の一人に頭を撫でられていた。彼女はエステルと言う。エステルは何が楽しいのか私に触れる時、にこにこと音が鳴りそうなほど嬉しそうにしていた。
 宿屋の一室、他の女性陣もいる中でのこの行為はよく分からない。彼女に背を向け、ベッドの上で得物の手入れをしながらされるがままだ。

 初めに彼女に頭を撫でられたのは、ある意味事故みたいなものだった。
 エステルは一緒に旅をするラピードという犬に構いたがり、触らせてほしいとよくねだっていた。ラピードは気位が高いものだからその願いは聞き入れられず、彼女が肩を落とすのは珍しいものではない。
 寝そべるラピードにお願いし、欠伸をされながら去られた彼女は近くに座っていた私を、何を思ったのか撫でたのだ。
 エステル自身も自分の行動に驚いて謝ってきたが、私は思うことがあり、彼女の暴挙を許しその後も撫でてもいいと言った。
 ラピードほどではないが私も鼻が利き、獣を狩る狩人の荒々しさをいまだに引きずっている私のことをエステルは『獣のようだ』と思ったのだろう。それは彼女だけではなく所属する天を射る矢の者たちにもそう認識されていることで、別段私は気分を害することはなかった。

 獣に触れたいと思っていた者が、『獣に似た者』が近くにいたから触れた。それだけのことだ。血に飢え同族を食らう獣は憎むべきだが、彼女はソレと私を一緒くたにしたわけではない。そもそもソレらの存在を知らないのだ。
 近くに獣のような者がいて撫でた。それだけだから別にいい。

 エステルは驚いていたし、周りの人間たちも驚いていた。
 ……私自身も、なぜ彼女にそんな許可を出したのかは分からない。ただなんとなく。それが理由だった。

 それからというもの、彼女は時々私の髪の毛に触れた。
 風呂から上がって濡れている髪の毛を乾かすと言って触れた。彼女に背を向けているときにふとした瞬間に触れられた。彼女が何かを撫でたそうにうずうずしているのを見て素直に頭を差し出して撫でられた。……自分でも何故こんな行動に出ているのか分からなかった。

 リタが羨ましそうにしていたのでリタのことを撫でた。エステルも仲間に入れてくれとリタを撫でた。ジュディスやパティも参加して女性陣で頭の撫で合いが始まり、髪の毛がぐしゃぐしゃになって笑い合った。
 仲の良ろしいことで。
 その中に自分も入っていることが不思議だったが、嫌な気分ではない。
 私は口の端を持ち上げた。
 悪くはなかった。


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