しとしと降る雨を部屋から眺めながらそういえば彼は傘を持っていかなかったからどうせびしょびしょになって帰ってくるな、とそんなことばかり考えて私は退屈な時間を持て余していた。
もう数回と同じ音を奏でるスピーカーはまた途切れ途切れな音の悪い音色を出して曲の二番目を流し始めた。生憎今日はCP9のほとんどの面々が任務でいない。唯一、残っていたカクはすぐ次の任務について長官に呼び出されるし私は滅多にもらえない休みを充実させようとしたのに楽しい話相手や御茶の相手もいないなんて。これではまだ任務に出ていたほうがマシだ。

何度目かわからないため息。気づくとまたスピーカーは二番目を奏でていた。みんなが帰ってくる気配はない。ちゃんと帰る時間を聞いておくんだったな。もう誰かを待つ気もなくなりかけて談話室のソファーに寝そべったまま大きな欠伸をひとつ。



「随分、暇そうだな」


頭上から聞こえた低い声にびくりと肩が跳ね上がった。まさかいきなり帰ってくるとは思わなかったから。

(え、変な顔見られた!?)

なんて心の中で焦っているのを彼に気づかれないために平常心を装い見上げると私の考えとは反対に傘なしで出かけたのに全然、雨に濡れていない愛しいルッチの姿。



「遅かった、ね」

「あぁ、…それよりこんなとこで寝るな。バカヤロウ」

「べ、別に寝てないよ!ただ待ちくたびれて横になってただけ」


あんな大口開けて欠伸してたのにか?そういうルッチに私は恥かしくなって顔をそむけた。途端にクックッと笑う声。

「やっぱ見てたの」


「なにをだ?」

口の端だけを吊り上げて馬鹿にしたように聞く彼にうるさいと一言いって手元にあったクッションをソファーの背からこっちを覗きこんでいたルッチに投げた。

あぁ、熱い自分の顔には気づかないフリ。
スッと当然のように片手でそれを受け止めたルッチは私に近づいてきた。怒っているのだろうか、俯いたまま無言の彼を下から覗いてみた。


「ルッチ……?」

ぼすんっ。
ものすごく拍子抜けする音とともに暗転する視界。いきなりの衝撃に一瞬なにが起こったのかわからなかった。

「ちょ!なに、ルッ……っ」


動揺を隠せない口ぶりの私の言葉は彼の口で塞がれてそれ以上を話すことはできなかった。ほんとに何を考えているのか全く掴めない人だ。深く噛み付くような口付けに体の底から変な熱が湧き上がってくる。


「動くなよ……」

耳元で呟く低音がぞくっと背筋を震えさせ、それと同時にひどく心地いい声だと思った。
諦め半分で彼に身を委ねることにしたのは多分気まぐれだろう。そう思ったのも束の間、急にのしかかる体重に小さな寝息。


「はっ……え?えーっと、ルッチさん?」


どういうことかさっぱり分からなくて彼の顔を見て微笑がもれる。だっていつもは無表情の彼が寝ているのだから。それも私の上で。それにしても相当疲れてる様子だ。まぁ、立て続けに数十件の任務を終わらせてきたのだから仕方ないのだけど、ここまで警戒心をといた彼は久しぶりで彼の寝顔を見れることがなんだか嬉しくなった。
だって彼も同じ人間だ。いくら殺戮兵器といわれようが疲れたりもするし悲しくなったりもする。冷徹で残酷な彼だけど嫌いになったりなんてできなかった。


スピーカーが流すのは順番でいうと最後の曲。その聞きなれた音に耳をすませながら彼の寝息に吸い込まれるかのように私もルッチの背中に腕を回して静かに目を閉じた。


「おかえりなさい、」


  流
浸 れ
っ 出
て る
私 感
は 情
融 に



(all in all return Hypnos)



************

気を抜きすぎた彼女たちが談話室で仲良く寝る姿をみんなに見られて冷やかされるのはもう少しあとの話。


all in all return Hypnos
全ては寝静まった

流れ出る感情に浸って




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