静まり返った広間に薄明かりが灯る。昼間は騒がしい部屋に船員の姿はなく窓から見える海は薄暗いため今が夜中ということがわかった。大広間でどうやら本を読んでいた彼女はキャプテンに借りた医学書を読み疲れたのだろうそれを大事そうに抱え込んで眠っていた。彼女はこの船では船医として旅をしている。まだまだ未熟だが医学を学ぼうとする姿勢にはいつも多くのものが感心すると口をそろえていた。それを見込んでか彼女を船医として仲間にしたハートの海賊団キャプテンであるローは少なからず彼女に興味を示していた。どちらかというと正しくは独占欲が半分、医者としての腕を見込んでが半分である。しかし本人はそれに気づいてないようだった。

カチャリ、部屋の静けさをかき消す木製の扉が開かれた先には腕を組みながらドア枠に背をあずけるトラファルガー・ローの姿。じっと机に突っ伏している彼女を見るとおもむろに近くにあった毛布を片手に取りそれを起きないように薄着の彼女にかぶせた。一度、厨房に入っていったローは手に小さなカップを持ち、スッと彼女の横へ腰かけた。白い湯気がカップのまわりにたちこめると香ばしいカプチーノの匂いが鼻を刺激する。甘いその匂いに彼女はピクリと反応しそれに気づいたローは口角を上げた。手に持つカップにゆらゆら揺れる彼女の好きなカプチーノはまだ熱い。それを飲むわけでもなくローは頬杖をつきながら彼女を眺めていた。ローの隈のできた目はいつも以上に楽しそうで彼がこのなんとでもない時間を楽しんでいることが伺える。


「フフッ…」

何に気づいたのか小さく笑うとローは彼女の手首を一瞬だけ力をこめて握った。伝わる熱と角ばった大きな手に包まれ、寝ているはずの彼女のビクッと跳ねる肩。ローは目を細めながら覆いかぶさるように彼女の耳元に唇を寄せる。煽るように首筋をひと舐めし、すぐに離れたそれ。ローの表情は白い帽子に隠れ見えない。しかし彼女の顔は真っ赤だった。



「心拍数上がってるぞ?」


コツッと踵を返し肩越しから彼女にニヒルな笑みを向けると何事もなかったかのようにその場をあとにした。机に置かれたカプチーノはそろそろ飲み頃だろうか。彼女がローになんの感情も抱いていないなんて見るからに嘘だ。真っ赤な顔の彼女がローを追いかけるのも時間の問題のようだ。
それを見通してドア横の壁に背を預けるローは夜の星にキラキラと光る海を見ながらクツクツと笑みを溢していた。





カプチーノのほろ苦い香りに乗せて紡いだ吐息は淡い夜色に溶けて、甘い余韻を残す


(081013)

甘い余韻を残す




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