誰かと一緒にいたのだけれど、気づいたときには、途中で迷子になってしまっていた。いったい何をしていたんだろうか。夜更けなのか、それとも夜明けなのか、そんなことさえわからない真っ暗な公園を焦りながら走ると、そう、まるでどこにでもあるような空き地に似た場所へと入り込んでしまったのだ。雨が降っていたのか泥沼のようになっていたそこは、ゆっくりと足の自由を奪い、訳のわからない恐怖を煽った。重力なのか、それとも。早く、早くと、急かす意識が頭の隅で暴れている。必死に、走り抜けようとするけれど、意図せず徐々に重くなる足にまるで、恐ろしいものが絡み付いているような錯覚をおこしながらも何とかそこからは、逃げ出せていた。
目をゆっくりと閉じ、瞬きをしているうちに、歩いていたそこの景色は変わり…見つけたのは何かの撮影場所だった。それはまるで何かの映画のようであったのです。しかしいつの間にか意識は、たくさんいる人から、どうしてなのかは、わからないけれど、それから見つからないようにして逃げていた。息を切らして真っ先に見つけた小さな廊下の突き当たりにあるドアをあけ、中へ入るとそこは閉じ込められたかのような閉鎖的な部屋だったのだ。どこかで見たことのあるような、錯覚に、目眩を起こしそうになった身体は、自然に眼球が下がり、それと同時に視界を遮ったのは病的であり異常なまでに白い、そのものだった。どくりとイヤな歪み方をしたような心音を感じながら、目を見開いた。今度こそ、ぐにゃりと視界が歪んだ気がした。
目の前を見るとそこには座り込んだ人なのだろう"それ"がいて、驚きで声が出せないでいると彼は嬉しそうに目を細めて近づいてきたのである。喉に張り付く何かが、とても気持ち悪い。声が出せないのは、意識的になにかを恐れているからだろうか。そんな思考がぐるぐるぐるぐると回っているにも関わらず、不思議と逃げようなどとは思えなくて、だけれど身体は震えていた。その冷たくて細い綺麗な指が頬に添えられ、まるで確かめるようにと、ゆったりと撫でられたことになのか、言い様のない嬉しさと、背筋をぞくりと這い上がる感覚に視界が揺れた。
「リドル」と名を呼ぶと眉間に皺を寄せてしまい、それに申し訳なく思いながらも彼の様子を伺うと、彼はゆっくりと笑い「どちらだ?」と未だに両頬を撫でながら問うた。その目に見えない何かに、ビクビクと小刻みに震えながらも、もう一度「リドル」と名前だけを、呼べば、彼は、今度は機嫌を良くしたように右手を頬からなぞるように首元へ動かしたのだ。「そうだお前には俺しかいない」そう言われたのだと身体が理解したときには、彼の胸の中で抱き締められ訳のわからない安堵感に涙し、座り込み、ああ、どうしてなのか。すがり付くように二人は抱き締めあっていた。

意識の中で、無意識に恐れていたものとは一体、何だったのだろう。今となって思う、名前を呼んだはずの彼とは、誰だったのかと。


                      そう、全ては夢だったのだ。

シュヴァルツヴァルトの亡霊




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