委員会卒業詰め

【善法寺と保健】両腕では抱き締めきれないな、と四人の後輩を前に保健委員長善法寺伊作は笑った。ありがとうもさよならも伝える前に、皆が大粒の涙を溢して泣き出す。…参ったなぁ、これでは僕までつられてしまいそうだ。「ねぇみんな…空が晴れたら、笑ってくれるかい」最後まで不運なその男は、生憎の曇天に見送られて旅立つ。小さな後輩たちは、その言葉に強く頷いた。「今だけ、今だけ、は…」伊作は言葉に詰まり、右腕で顔を覆う。その涙を隠すように、後輩たちを出来る限りの優しさで抱き締めた。

//一筋の

【鉢屋と黒木】「鉢屋三郎先輩、二年間お世話になりました」小さな後輩は、深く頭を下げた。「またお会いできる日を、楽しみにしています」「ああ、出来れば…戦場では、会いたくないな」お前は賢いから。私の言葉にその子は笑う。「その時は、容赦なく僕を殺しにきてくださいね」あどけない幼子の面の奥に潜む、確かな殺意を映す瞳から目を逸らすように、ふいと背を向け、私は学舎に最後の別れを告げた。

//きょうき

【立花と笹山】立花仙蔵作法委員長の門出を祝い、少し早い花見でもしようか。日頃委員会をサボってばかりの綾部先輩がそんな提案をするとは、思ってもみなかった。まだ薄桃の蕾を抱えた桜の木の下に、僕ら五人は集まる。「今の私達には、これくらいが最も美しく見えるのかもしれんな」散ってしまうのは悲しいから、と卒業を間近に控えた立花先輩が何処か淋しげに微笑む。…桜が満開になる頃、貴方はいないだろう。桜が散る頃、貴方は何処にいるのだろう。風に靡く美しい黒髪が、淡い桃によく映えていた。

//さき ほこる

【七松と皆本】遂に、別れの時がやってきた。お世話になった先輩と過ごす貴重な時間だというのに、感謝を伝える大切な言葉だというのに、僕はただ泣いてるばかりで、何も言えなかった。「ほら泣くな、金吾!」七松先輩は困ったように眉を下げて笑い、僕の方へ手を伸ばす。「お前はいつか必ず、強い男になるだろう」太陽を背にした貴方は、まるで金の鬣を揺らす獅子のように逞しい。「っは、…はいぃ!」けれど、僕の頭を撫でる大きな掌から伝わるのは、一人の優しい人間の、確かな温もりだった。

//王


【下坂部と食満】手入れや点検を怠らないこと、整理整頓を徹底すること、一つ一つ確かめるように、貴方は僕らに教えを説く。お前らが俺の後輩であったことを誇りに思う、と最後に貴方はその言葉で括った。「そのお言葉、しかとこの胸に刻みます」富松先輩が深く頭を下げ、僕ら一年もそれに合わせる。「元気でやれよ、作兵衛、喜三太、しんべヱ、平太」旅立つ貴方が残してくれたたくさんのこと、僕の頭に触れた手が温かかったことも、きっと忘れない。

//あなたの見た景色 いつか僕が見る景色

【潮江と加藤】最後の日まで帳簿計算、最後の言葉は「バカタレ」だった。卒業だなんて嘘ではないかと思ってしまうほど、最後までいつもと何も変わらない会計委員会。その日もいつの間にか寝てしまったらしく、目を覚ますと貴方はもうこの学園にはいなかった。朝日に照らされた文机の上に置かれた一枚の紙には、世話になったと貴方の字で書かれていた。「僕の方こそ、お世話になりました…っ」感謝の言葉も、もう貴方には届かない。

//最後などなくていい 日常に消えてしまえ

【中在家と摂津の】明日になったら開けて欲しい、と小さな声で貴方が手渡したのは、一つの壺だった。言われた通り次の日になって蓋を開けると、中には銭が貯められていた。四つ折にされた小さな紙を開く。『お前のアルバイトを手伝って貯めた金だ お前の為に使って欲しい』「中在家先輩…!」いつだって貰ってばかりで、何か返せただろうか。それに答えるように、貴方の言葉が続いた。『お前はいつも私を笑わせてくれた これはそのお礼だ』優しい貴方を笑顔に出来たなら、銭などなくてもこんなに嬉しいことはない。
//ほんとうの価値

【竹谷と生物】動物は本能で別れを感じとるのだろうか。卒業の朝を待つ真夜中、委員会の後輩達が長屋の戸を叩いた。「竹谷先輩…あの…何処かへ行っちゃうんですか…?」悲しそうな後輩達を不安がらせまいと、俺は精一杯の笑顔で言った。「なーに言ってんだ!そんな訳あるか!」そんなものは気休めにしかならない、朝日が昇れば直に気づくだろう。悟られないように笑うのは難しい、自分が平生どのように笑っていたのか、自信がなかった。それでも安心したように微笑む後輩達、最後に見たのが泣き顔ではなく笑顔でよかったと心から思う。

//最後の嘘は 優しい嘘でした

【久々知と二郭】火薬委員会に伊助がいてくれて、本当に助かったよ、と貴方は僕の頭を撫でた。行く先も告げずに、貴方は遠くへ旅立つ。「本当は逆のことを言わなきゃいけないんだろうけど…」そう言いながら貴方は群青の頭巾をほどいて、僕の首に結んだ。「俺のこと、忘れないでくれるか」染み付いた火薬の臭いがする。「忘れる筈、ないじゃないですか…!」ありがとう、と貴方は照れ臭そうに微笑む。「それじゃあ、行ってきます」一歩外へ踏み出した貴方の姿が、とても眩しく、遠く見えた。

//残ったものは、何だい

出会いと別れを繰り返し、そうしてまた春はやってくる。僕らが此処で生きているのは、悲しみの為ではないと信じたい。



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卒業シーズンなので、五、六年卒業詰め。

卒業を知らされているのと、卒業する日を在校生に知らせてはいけないのと、二パターンあります。
補足→さき ほこるは、「咲き誇る」まだ桜は満開になっていないけれど、「先誇る」忍の道を先行く貴方を僕らは誇りに思います、という意味。

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