三人で話している時に、ふとカレンダーをみて気付く。
「あ、チーター様もうすぐお誕生日じゃないっすかー」
「その呼び方気に入ったのかよ」
一年の沢村くんが付けた倉持を表す動物、なんて素敵なネーミングセンス。
肉食っぽいし、獰猛そうだし、そっくり。
あ、あと足が速いね。
稲実のハーフには負けるけど。
これを言ったらプロレスが一方的に始まるから言わないけど。
「チーター様欲しいものある?ないかーないよねー」
一応聞いてあげる私はなんて友達思い!
優しいさすが!
「お前のいない世界」
なのにどうして倉持クンはこんなに酷いのでしょう…。
「残念だったね…私がいない=倉持もいないよ」
「お前俺のなんだよ」
「あ、そのセリフ萌える」
「「クズ」」
暴言だけ被せてく御幸もちゃんと話を聞いてくれているようで安心した。
スコアブックばかり見てしゃべらないから、いないのかと思ってた。
「じゃあチーター様の写真集作ってあげるね。チーター様オンリーワンのフルカラーアルバムで全50ページ。」
練習も試合もたくさん毎回写真撮ってるから、余裕でページは埋まる。
100均でアルバム買って、学校で写真プリントすれば余裕だなー!!
「いらねーわ」
「……本気で即ゴミ箱に捨てそう」
「ヒャハハ!わかってんじゃねーか」
「えー…私にできること他にないよー」
せっかくの案も台無しのようで、ガックリくる。
アルバムとかもらったら喜ぶくない??ふつー!
「なんもいらねーって。特にお前からは。後が怖い」
「オッケー!私に祝ってもらえればそれで満足ってことね」
「…みょうじって、本当ポジティブだなー」
お昼休みももんもんと考えてみたけれど、良いものなんて思い付かない。
くれなくて良いなんて、倉持は言うけれどあげたいのは私。
「ねぇねぇ御幸ー!一緒に倉持のお誕生日プレゼント考えて」
「やだ」
「それ俺のいないとこで話せ」
「御幸は何が良いと思う?ただの物?それとも心のこもった物?」
物が贈りたいんだよ!
気持ちじゃなくて、物が!!
友達に!!
プレゼント!!
贈りたい!!!
「物なんかいらねーよ。邪魔だ」
「だってさ。お前の愛でもあげとけば?」
「「…ないわー」」
御幸に聞いたのが間違いだったよね〜。
全然センスない回答。
0点。
面白くない。引く。冷たい。
ほら倉持だって引いた目でみてるのに、全然関心なさそうなのは何でですか?御幸?
「御幸は?何かしてあげないの??」
「俺に何かされたい?」
「なんにもすんなマジで」
怪しく光るメガネ。
ニンマリ笑った御幸をドン引きの目で見るしない。
その他にも色々調査してみたけど、倉持の気に入りそうなものは稼頭央以外何一つ思い当たらない。
稼頭央がよくわからない私にはどーすることもできないし…。
みんな出払って誰もいない写真部の部室で、パソコンに写真を取り込みながら稼頭央について検索する。
「どうしたもんかなー」
「なんだよ、まだくだんねぇこと悩んでんのか?お!稼頭央じゃん」
「あ、倉持…部活は?」
野球部のユニフォームを着た倉持が窓の縁に現れパソコンの画面を覗き込む。
教室に忘れ物を取りに行くらしい。
ここから入らせろと言って、靴を脱いで窓からよじ登ってきた。
ずかずかと部室を抜けるチーター様の足は止まってこちらを振り返る。
「お前さ、…なんでそんな俺の誕生日にこだわってんの?」
キャップを深くかぶり直した倉持の表情はよくわからない。
はぁ?
なんで今さらそんなことを聞くんだろ?
「大事な友達だからでしょ!」
「言ってて恥ずかしくねぇか?」
「なんで?」
「…いや、別に。お前ってホントバカだよな」
そう言った倉持は、なんだか呆れを含んで困ったように笑っていた。
どうしてそんな顔するんだろ?
その理由はわからないけれど、倉持は靴を持って「また明日な」と部室を出て行った。
「ハッピーバースデーチーター様!」
「チーター様いい加減飽きろよ」
「はい、遅くなったけど、これ」
机に置くプレゼント。
今日は朝からひっきりなしに倉持は野球部の人にお祝いをされていて、なかなか話しかけるタイミングがなく結局放課後になってしまった。
「おお、サンキュ」
なんのためらいもなく倉持は袋から出し、頑張ったラッピングをビリビリと破く。
「…うん、わかってたけどね…」
「うぉ!!なんだこれ!!」
「フォトモザイクのパズル」
A4サイズのそのパズル。
たくさんの写真で作り出されているのは倉持が盗塁した時に魅せたガッツポーズ。
我ながらナイスセンス!
倉持も感激してくれたようで、箱から出したそれをみて感動の「おお!」は何回目。
昨日みたいな困った笑顔じゃなく、今度はちゃんと笑ってくれてる。
良かった。
「あ、気を付けて欲しいんだけどそれまだ…」
ぐしゃり
思いもよらない方向から伸びてきた手がパズルの端を崩した。
そう、これはまだ糊で固められてない。
「あ…」
「…御幸ッ!てっめぇッ!!」
「とっとと部活行くぞー」
御幸はひどくつまらなそうに握ったパズルをパラパラと手から離した。
「おい!!っざけんな!!自分も欲しいからってヤキモチ妬いてんじゃねぇよ!!」
「…ヤキモチ…?御幸も欲しかった?」
つーんとそっぽを向く御幸はまるで降谷くんのよう。
「じゃあ、御幸の誕生日にも作ってあげるね」
「A3で」
そのままスタスタと教室を出て行った。
少し呆然としてしまったが、ちゃっかり大きいサイズで要求してくるもんだから、思わず笑いが漏れた。
「わりぃ、みょうじ…帰ったらちゃんと作り直すから!」
崩したピースを丁寧に拾って一緒に箱へ戻した。
普通のパズルと違って難しいだろうなー。
「…ありがとな。じゃあ部活行ってくっから」
後ろ姿で見えた倉持の耳が少しだけ赤い。
思わずこちらまで、顔がほころんだ。
写真付きで送られてきたメッセージ。
『御幸が30分で作り直した』
御幸得意そうだし、倉持は苦手そうだもんな。
その様子が容易に思い浮かんだ。
糊で固めたようで、付属の額に入れて勉強机の前に飾ってもらえていた。
誇らしい気持ちになったので明日感謝しよう。