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純さんはなんだかんだ優しい

「純さん!今日の部活も頑張ってください!」

真夏の日差しが燦々と照りつける中、今日も青道高校野球部たちは白球を追いかけ、私はカメラを持ってそれを追いかける…のが常なんだけど。
少し離れた所にいる純さんへ両手を振りエールを送った。

「お前も熱中症になるなよ」

ん〜!!
純さんは今日も素敵に優しい!
私の純さんへのラブコールも純さんから私へのラブメッセージもみんな慣れっ子だから、(生)温かい目で見守ってくれている。


「お前さ、こんだけ野球部員いるのに伊佐敷しか見えてないの?」


この人以外は。

「あ、亮介さんいたんですか小さくて見えませんでした」

この人が一番嫌だと思われる言葉を私も選ぶ。
みんなに毎日「ご臨終」って言われてるけど、今のところ殺されたことはない。
でもさすがに今の言葉はマズかったのか、バットを肩に担いだ亮介さんを純さんが慌てて止めに来てくれる。

「亮介やめろ!さすがにバットは…ボールにしとけ」

「え?!ちょ?!え??純さん?!」

ボールでも痛いよ?!
この人ガチで当ててくるからホント痛いんだよ?!(何回かやられてる)

「てかお前何しに来たの?今日はカメラも持ってないし。ついに写真部クビになったの?」

嫌な男は目敏くて困るなァ。

「部活にクビとかないですから!…んー何しに来たんだっけ?」

えへっと笑って誤魔化した。
それにキョトンとした二人は、きっと私の可愛さにメロメロズッキュンなんだな。

「は?なんか用だったんじゃねぇのか?」

呆れたように笑った純さんは、今日も世界一素敵だなー。
癒されるなー。
連れて帰りたいなー。


「純さんがカッコ良すぎて忘れました!また来ます」


本当に用なんか無くて、ただなんとなく、落ち着かないから…。

「もう来んなバカ女」

「亮介さんもまぁそれなりに?…頑張ってください」

そんなに意外だったのか。
亮介さんは持ったされた野球ボールを指先から落として転がした。
そりゃ犬猿の仲だの水と油だの言われるから、私がこんなこと言えば、意外か。
ポカンとする二人に「お邪魔しました〜」と言って、 写真部の部室へ戻った。





気がつけば空は橙色と濃紺色でわかれていた。
誰もいなくなった部室でぼんやりとしすぎてしまったようだ。
普段明るく前向きな分、少し落ちるとなかなか戻れなくなることがある。

「帰ろ」

独りそう呟いたところで、誰かが反応するわけでもなくて。
電気を消して部室の扉を閉めた。



「よぉ」



「ッギャァァア!!!?なに?!!え???!!」

「うるせぇよ!!」

「…え?え?…じゅ、んさん?!」

誰もいないと思っていたのに、突然かけられた声に驚きすぎて心臓止まるかと思ったぁぁぁ!
そこにいたのはトレーナーに着替えた純さん。

「どどどどうしたんですか?!こんなところで…」

「あ?あー……写真部の部室の電気点いてたからもしかして、と思って。中覗いたら死んだ顔したみょうじがいるし…お前こそどうしたんだよ?」

そんな風に気にかけてもらえたのか。
驚きと、素直に嬉しくて、ゆるむ口元。



近くまで送って行くと言ってくれる純さんは、とっても優しい。
夜が侵食した空を見上げながら、大したことない悩みを打ち明けた。

「コンクールに写真を出展しまして。それが自分の中で結構自信ある一枚で。賞が欲しいなぁと業突く張った悩みなんです」

自信があるからこそ、選ばれなかったらどうしよう、という不安も同じように大きい。
それが全てじゃない。
でも、その写真は私の“自信”で、今ある私の“最高”だから、みんなに認めて欲しい。

ポツリと呟く私の言葉を純さんは歩きながら黙って聞いてくれていた。

「見て、もらえるだけでも嬉しいんですけどね。でも、欲が出ちゃって!」


「……お前でもそんな悩むことあるんだな」


「純さん?!それちょっとどういう意味ですか!!」

「わりぃわりぃ。ま、んな心配することねーだろ」

純さんは、大したことじゃなくて安心したわとケラケラと笑った。

「みょうじが自信あって“最高”だと思ったんだろ?じゃあ大丈夫」

くだらねぇ心配すんな、と軽く頭を小突かれた。


「それに、俺たちはいつもお前の撮ってくれた写真が“最高”だと思ってる」


ニッと自信たっぷり笑った純さん。
つきんつきんと、別の意味で胸が痛い。
溢れそうになる感情。

「純さん!!」

「ん?」

大きく息を吸い込んだ。


「ありがとうございましたッ!!ここ曲がってすぐなので!話聞いてもらって、送ってもらってありがとうございます!!」


「声でけぇよ!うるせぇ!近所迷惑だろうが!!」

そういう純さんの声も十分大きい。

「じゃあ、また明日!!おやすみなさい!!」

少し走って振り向いて手を振った。
にひひっと笑いながら振り返される手。

それから家まで全力疾走。


もう!
あぁぁぁ!!
もう!!!

家に着けば、心臓がバクンバクンと大きく脈打っていた。


[ 純さんはなんだかんだ優しい ]

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