授業が終わり、教科書類をロッカーへ片しに行った。
ついでに置いておいたサイドバックからお弁当を取り出そうとした時、私は衝撃を受けたのだった…。
「助けてもっちー!!」
「帰れ」
御幸の前の席で、昼飯である最後のパンを口に運びかけていた倉持の腕を掴んだ。
「今日!売店に期間限定ハンバーグ乗せオムライス弁当あるんだって!!」
彼の好物は、小さな子どもみたいなメニュー。
なんなら本当は今でも“お子様ランチ”とか好きそう。
「…へぇ」
倉持は少しだけ耳を傾けながら、ひと齧り。
私はわざとらしく涙を拭うフリをした。
「みんなで一口ずつ食べたくない?期間限定だよ?
…でも、私の足じゃ今からなんて到底間に合わない…ここはひとつチーター様の本領を…」
「稲実の神谷がチーターとか言ってなかったか?」
御幸、とりあえずお前は黙ってスコアブックでも見てろ?な?
「何を仰いますか!!? ここにおわす倉持様こそ本物のチーター様!!!!」
俊足と言われて右に出る者などいない!
盗塁王!
青道のリードオフマン!
なんて適当なこと並べ立てたら、少しだけ口元緩んでるんだから、普段スカしてる倉持だけど、所詮その辺の男子と変わらないわ。笑える。
倉持って、優しいし、純粋だし、まっすぐだよね。
眼鏡より、なんなら私より真っ白だわ。
「…ったくしょうがねぇな。2分で戻る!」
すごい速さで教室を出た倉持の背中を見送って、彼が座っていた席に移動した。
「…チョロい」
「どーでも良いけど、そんな弁当今日置いてなかったくね?」
眼鏡はさすがに目敏いな。
さっきのは適当に吐いた嘘。
「え?御幸売店行ったの?」
「そのメロンパン買いに倉持と行った」
「ブッ…!」
「汚ねーよ!!」
「なに?!倉持も行ったのに、嘘に引っかかったの?」
あはは!
倉持は、のせられちゃうと周り見えなくなっちゃうんだね。
散々笑ってメロンパンに齧り付く。
「倉持の食べかけだけど、このメロンパン美味しいわ〜!今日お弁当忘れた上に財布も忘れたからさ〜」
危うく腹ペコリーナで五限の体育になっちゃうところだったよ〜。
喉に詰まっちゃうから、横に置いてあったカフェオレも飲んじゃう!
嫌いだけど!
「後で倉持に殺されても知んねーぞ」
呆れた視線を向ける御幸に“ごちそうさまでした”と手を合わせて立ち上がった。
「さぁ、怖〜い人が帰ってくる前に、女子更衣室に逃げ込みますかな」
じゃあねぇ〜と御幸に手を振って全速力で廊下を抜け、階段を抜けた辺りで私の名前を叫ぶ声が聞こえた。
この夏一番の怖い話。