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「#年下攻め」のBL小説を読む
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05

「え?ミウラ商事さんから呼び出し…?」

午後の仕事を始めようかと思っていた矢先、部長に呼び出された純と私。
あの日の一件で、仕事の話以外では、おはようとお疲れ様ぐらいしか会話していないまま一週間が過ぎていた。
胸の中でどんよりとする気持ち。
タカヤもあれから、連絡はくるものの家には来ていない。
少しは悪かったと思ってくれているのだろうか?

「そうなんだよ〜…伊佐敷なにか怒らすようなことやらかしてないよな?!お前この間むこうの社長の接待に行って来てただろ?」

「なんもなかったと思いますけど…。怒ってたんスか?」

純も考えているが、酒の席とはいえ酔っぱらってしでかすような真似はしないと思うし、何よりあの日はそんなに酔っている風でもなかった。

「わからん…ただみょうじと一緒に来て欲しいと向こうから連絡があって…みょうじも何もしてないんだよな?」

「私はメールや電話の取次ぎをさせていただいてますが、問題になるようなことは……あ…そういえば、やり取りをさせて頂いている向こうの営業の方に先日ご飯に誘われたのは、お断りしましたが…」

「あ゛あん!!?」

そういえば、いつもやり取りをする営業の男性が突然電話で『俺たちも、ご飯、行きませんか?』などと言われて、丁重にお断りさせて頂いた。
普段そんなに仕事の話以外するような間ではないし、したとしても軽い会話程度で、むしろ突然ご飯に誘われるなんてこっちの方が驚いたぐらいだ。

「なんで言わねぇんだよ!」

「ごめんなさい。大した事ではないと判断したので…」

あまりに純が声を荒げるものだからまぁまぁと部長が窘める。
もう一度深く頭を下げて謝った。

「ごめんなさい、軽率な行動で不利益になるようなことになってしまったのなら、本当にすみませんでした。今から、ミウラ商事様に伺い謝罪申し上げてきます」

「みょうじ、悪いがそうしてくれ。くれぐれも事を荒立てるようなことにはならんようにな」

一旦、準備するために自席に戻れば、深い溜息が出た。
仕事への影響を考えて食事に行くべきだったのだろうか?
てっきり、気まぐれで話のついでに冗談半分で誘われたものだと思っていた。
この間のこともあるのに、仕事でさえ純にまで迷惑かけることになって本当にかっこ悪いな、私…。






「なまえ」

急いで支度をしてロビーへ出れば、そこには純が待っていた。

「一人で行くつもりだったんか?」

「…ごめんなさい。私のせいで足引っ張りたくないから…」

純は相手先の社長にえらく気に入られている。
だから、一緒に行って彼の心象を悪くする必要も、純に迷惑をかける必要もないと思ったからなのだけど。
眉間に皺を寄せた純は、やっぱり怒っているのだろうか…。

「俺も行く」

低く唸るように言う彼はよほど怒り心頭らしい…。
心の中でもう一度深く溜息を吐いた。


「一発殴りてぇ」


まさかそこまでとは…。
さすがの私も青ざめてごくりと唾を呑み込み、きつく目を瞑った。

「ど、どうぞ!それで伊佐敷さんの気が済むなら…」

「あ?」

「頬でも腹でもどうぞ!殴るなり、蹴るなりしてください!」

「んなことできるわけねぇだろ!」

「でも、伊佐敷さんの、足、引っ張って…本当に申し訳なくて…殴って気が済むなら」

売上、ひいては彼の査定や給料にだって響く問題になるかもしれない。
こちらに来たばかりの純の評価に関わるとなれば、それはもう怒られたって、殴られたってしかたない。

「だからって殴れねぇっつーの。相手は社長息子だぞ?」

「え!?あの人、社長息子だったの!?…し、知らなかったとはいえそれは……やだ、もう、本当に殴って…」

ずっと業務連絡を交わしていた相手が社長息子とは知らなかった。
純の前に出て、もう一度ぎゅっと目を瞑った。
腹を、括るしかない…

「お、お好きなだけ、お殴りください」

「は?…何言ってんだ、バーカ。お前を殴るわけねぇだろ?」

一瞬きょとんとした純は、本当に何言ってんだ、と呆れた顔をした。

「俺が殴りてぇのは向こうの社長息子だよ。あのボンクラめ…なまえを口説こうなんざ百年早ぇつーの!」

青ざめていた私はきょとんとせざるを得なかった。
どうやら勘違いだったようで、彼の怒りは私に対してではなかったらしい。
それではなぜ相手方に怒っているのか…ふと疑問に思ったのも束の間。
私の横をすり抜けた純にぽんぽんと頭を撫でられてしまい、思考は停止した。

(あ、あたまっ…!?)

血の気も引くほど落ち込んでいたのに、触れられた頭が急激に熱くなる。

「あ…悪ぃ、つい…!違うんだ、この間の事とは関係なくてッ…お前がそんな、どーしよもねー犬みたいな顔してっから…」

自分の手を見つめ顔を赤くしている純。
良いから行くぞ、と背を向けられてもその耳だけは見えてるよ。
だから彼には聞こえないように小さく笑ってしまった。
犬って何よ犬って。
どっちかって言うと純の方が犬なんだからね?
青道のスピッツ。







ミウラ商事の社長さんが好きだという有名な羊羹を手土産に伺えば笑顔で出迎えられた。
怒っていた、というわけではなく、逆に普段の対応に関してはお褒めの言葉を頂いた。

「怒られなくて良かったー!!」

「内心すっげぇヒヤヒヤしたけど、哲と御幸のサインが欲しいっつーだけのことで良かった」

そう、ミウラ商事の社長と息子さんは、熱狂的な野球ファンらしい。
私たち二人が青道の野球部で今を華やいでいる哲さんや御幸くんの世代と同世代であると知って、是非にと頼んできたのだ。
純にはこの前の接待で断られたから、私にアプローチを掛けようと思ったらしい…。
ついでに日頃の対応の良さ(大口だから多少の無理でも聞いてるとこあるけど)をお褒めに預かった。

「しゃーねぇ…哲に連絡すっか」

「そうだね、じゃあ私御幸くんに連絡するよ」



二人でコーヒーショップに立ち寄り窓際のカウンター席に並んで腰掛け、電話帳を開いた。

有名選手になってからは数年に一度行われる青道OB同窓会でしか顔をみない二人が、今の時間に連絡着くのかはわからないけれど二人で電話を鳴らす。

『もしもし?』

「あ、御幸くんお久しぶり。突然連絡してごめんね?みょうじだけどわかる?」

もしかしたら連絡先消されていたかな…?
電話に出た御幸くんは訝しげな声だった。
繋がったよ、と純にアイコンタクトを送れば、純からはダメだったと返ってきた。

『お久しぶりです、みょうじ先輩。先輩から連絡なんて珍しくて驚きました』

「本当にごめんね?実は御幸くんにお願いがって…」

『へー?先輩が、俺に?じゃあお礼になーにしてもらおっかなー?飯でも行きます?』

テレビで見かける日も多くなってすっかり有名人になってしまった御幸くんは、変わってしまったかと思ったけれど相変わらずの軽口。

「えー…御幸くんとスキャンダルになるのは勘弁だなー」

「おい!なまえ!御幸と何話してんだ!!?」

『あれ?純さんもいるんですか?』

御幸くんの有名人っぷりは野球が上手いってだけではなく、顔良しなもんだから芸能人とのスキャンダル報道も数多。
絶対にありえないとわかっていても、万が一にでもそんな事態だけは避けたい。

『先輩いつのまに純さんと寄りを戻したんですか?』

「そういうわけじゃ…」

『へぇ、そういうわけじゃないなら、その辺詳しく聞かせてもらいたいんですケド』

電話越しにケラケラと笑っている御幸くんとの会話が気になったのか、大人しくこちらを睨んでいた純に携帯を奪われた。

「おい!御幸!くだらねぇこと言ってねぇでてめぇのサイン寄越せ!」

『それ、人に物頼む態度ですか〜?』

「お前…ちょっと有名になったからって上から目線か?コラ?!」

「純!声大きいよ!」

周りの視線も集まるし、携帯を取り上げようと思えばそれを拒否するように純が少し引く。
明らかに悪態ついてるけど楽しそうに会話してるし、まぁいいか…と体を起こしかけた時、私たちの後ろを通った外人バックパッカーの大きなカバンが勢いよく私の後頭部を叩いた。

「っ…!?」

痛いじゃないか。
そのカバンはもはや振り向くだけで凶器だよ。
もともと携帯を奪おうと崩れかけた体勢だったため、思わぬ衝撃に支えきれずお尻が浮いて椅子から落ちそうになる。

「っぶね…!」

藁をも掴む思いで、伸ばされた腕にしがみついていた。

「ご、めん!」

片手で抱きかかえられた状況にどきりとするより、野球をする純の腕が痛まなかったかのほうが心配になる。
携帯を持ったままの純は、危ねぇだろ、と声を上げて外人を注意した。
でも笑っていて、つられるようにホッとした私も破顔しかけた。



「なまえ!」



今、聴くはずのない声に冷水でもかけられたかのように心が冷える。

まさか…
なんでこのタイミングで…
気のせいであって欲しいと思ったのに、声のした方へ視線を向ければ今一番見られたくなかった人物がいた。


「…タカヤ」


純が低い声で「また連絡する」と言って電話を切っているのが遠くで聞こえた。





[ 05 ]

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