「こいつなんだよ!マジ感じ悪ぃ!」
聞こえて来た悪態。
別に右から左へ聞き流しても良かったんだけど、その相手を見てなんか不愉快になった。
「聞き捨てならないんだけど。うちの後輩が何かした?」
仁王立ちで行く手を阻む。
男子生徒二人は、恐らく一年で絡まれてるこの子の同級生でクラスメイトかなにか。
愛想が悪いこの子のことだから、まぁほぼだいたいそういう理由で彼らは怒ってるんだろう。
わかってはいても、いらない口を挟んでしまう。
「なんだよっ…関係ねーだろ!」
「あ゛?先輩に向かってその態度なに?!」
「みょうじ先輩」
食ってかかりかけた私の手を国見英は引いて止めた。
「ブス!」
ふざけんな。
なんだよその捨て台詞は!!
「国見くん離しなさい!殺す!!」
「関係ないし。恥ずかしいからやめて」
恥ずかしいって理由なに?!
仮にも私はきみを庇って、だよ?!
憤りのまま睨みつければ、当の本人は可笑しそうに吹き出した。
まぁ珍しい表情ですこと。
「…ブスって…今時、捨て台詞にブスって…ガキくさ」
ツボに入ったのかなんなのか。
腹抱えて肩を揺らす国見くん。
納得いかない。
「ちょっと人がかっこよく守ってあげたのに、なによー…」
「助けてなんて言ってないし」
スッと元に戻るのやめてよ怖い。
ツンとした表情に戻った国見くんは、踵を返してしまった。
「良いけどさ。私がほっとけなかっただけだし…」
私も戻ろう、そう思いお互いに背を向けたと思ったのに、勢いよく体勢を崩したのは思いもよらず後ろから引っ張られたせい。
転ばずに済んだのは、背中に縋るものがあったから。
暖かく、一瞬。
「…ありがと…って思って、ないこともない」
腰に回された腕は、あわやセクハラですよ。
けれど、叫ぶことなくその手を二度軽く叩いた。
「どーいたしまして」
ゆっくりと離れた温もりは、素直じゃない。
「また部活でね、国見くん」
「……うん」
でも、そこが可愛い。
離れても、温もりは変わらずそこに。