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いえ…ただ、寝不足です

「みょうじ、こっち」

寝ぼけ眼でぼんやりとした思考のまま黒い集団について歩いていたつもりだけど、気付けば目の前の黒い服は知らないスーツのおじさんだった。
手を引いてくれた人のはスガ先輩ようで。

「まーだ覚醒してないのかよ?みんなとはぐれてるぞ」

周りを見れば行き交う人ごみに見知った人たちはいない。
いつの間にこんなことに!?
駅の中を行き交う人は多く危うくはぐれてしまうところだった。

「すみません、ありがとうございます」

手を引っ張ったまま歩き出したスガ先輩に付いて行く。
これから電車に乗って練習試合へ行くと言うのに、気が引き締まってなさすぎると怒られるだろうか…。
ちらりとスガ先輩の顔を覗くと心配そうな表情の彼と目が合った。

「どうした?考えごとか〜?」

「いえ…ただ、寝不足です…」

少し寝れなかっただけ。
ナイーブになった夜がたまたまタイミング悪く昨夜だっただけのこと。
別に意味もなく、あっても良くわからないけど、ただ落ち込みたかっただけ。

スガ先輩は「そっか」とだけ言って笑ってそれ以上はなにも聞かないでくれた。
だから大人しく先輩に引かれるまま歩く。
朝の通勤時間だからたくさんの人がいて、それでも先輩は黒い集団を見失うことなく私を引いてくれた。


前を歩くサラリーマンの人が朝食だろうかサンドウィッチを頬張りながら、ぽろぽろパンくずをこぼしているのが汚い。
先輩にかかったらどうするんだ…。
先輩もそれに気付いたのか私を自分の後ろに引き、庇うように歩いてくれる。
ホントいい人だな先輩は…。
でも、さすがに食べ終えた袋をこっそりポイッと捨てるような人間は許せないんだよ私は。


「ちょっと!ゴミ!落としましたけど!?」


苛々の絶頂だった私はそのサラリーマンの服の裾を掴んだ。
スガ先輩も突然の事にぎょっとして、離れた手。
その隙に落ちたゴミを拾ってその男につきだす。

「これ!あなたのゴミですよね!?」

「ち、ちがいます…!」

男はそうぼそぼそと呟いて逃げるように走り出した。

「ちょっ…!!」

「みょうじ!」

私の腕を引いて止めた先輩を睨むように見る。

「…ポイ捨て、許せない」

「うんうん、わかったからそう睨むなって。でも、あんなのにかまっててもしょうがねーべ?」

先輩は私の手からゴミを奪い、ポケットへ仕舞い込んで歩き始めた。
何事もなくさらっとこういうことをしてしまう先輩。


「みょうじってぼやっとしてるとこもあるのに、時々こうやって突飛なことするよな」

ぼやっとしていたのは朝だけで普段はしっかりしてます、って言い返そうと思ったのにまた腕を掴まれてなんだか改めておかしな状況にどきどきする。

「あの、先輩もう手を放してもらっても大丈夫ですけど…」

「へ?…ああ、みんなのとこへ追いつくまでね。 またフラっと居なくなったら俺が心配するから」

へらりと笑ったスガ先輩の言葉。
“俺が”ってどうして強調して言ったんですか?

「にしてもさっきのみょうじかっこよかったな〜」

「男じゃないんでかっこよかったって言われても…」

「そう?じゃあ…」


可愛いって優しく笑いながら言って、頭を撫でてくれる先輩は眩しい。


なんだこれ。
なんでこんなにドキドキさせられてるんだ?
はっきりと覚醒した思考は、むしろオーバーラン気味。

私は手を引かれるまま、階段を駆け上がった。


[ いえ…ただ、寝不足です ]

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